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なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀 講談社ブルーバックス 2022.4.20
読書日:2022.11.6

カリフォルニア大学バークレー校教授の野村泰紀が、ビッグバンからマルチバース宇宙までを解説する本。

わしは現代宇宙論についての本をときどき読むことにしている。量子力学に加えて、わけがわからない学問の筆頭ですからのう。この本では個々の理論の解説については、まあ、通常のものと変わりはなかったが、いろいろ細かい表現のところがわしには面白かった。

例えば、星が無限個あるのなら宇宙はなぜ暗いのか、という問いがある。普通は宇宙は膨張しているからとか、そういう説明がされることになっているが、野村泰紀さんによれば、宇宙はぴかぴか光っているんだそうだ。ただし宇宙背景放射マイクロ波で(笑)。まあ、確かにね。

別のところでは、例えば人間原理に関する説明がちょっと気になった。

普通、人間原理といえば、なぜ私たちの宇宙の物理的パラメータはこうなっているのか、という疑問に対する説明で、このようなパラメータでないと人間が誕生しないから、とされているものである。こんなの聞いたら、だれだって、そんなの説明になっていないじゃん、と思うだろう。

しかし、野村さんによれば、人間原理というのはそういうものじゃないそうだ。人間原理というのは、人間が誕生しないような膨大な数の宇宙の可能性を論理的に示しているというのである。つまり、10の120乗とかそういう桁違いの数の宇宙(マルチバース)が存在していることを示しているというのだ。そのくらいのスケールでマルチバースの宇宙が存在していないと、人間が誕生する宇宙ができる可能性はゼロになってしまうから、というのである。

言わんとしていることはわかるけど、人間原理を認めると本当にマルチバースが論理的に認められることになるのかしら? せいぜい示唆しているぐらいじゃないかなあ。

マルチバースを補強するほかの根拠は、超弦理論だそうで、超弦理論はパラメータ設定で多くの異なった世界ができるからという。でも、これも単に実験データが足りないだけかもしれない。

わしはマルチバースの可能性は認めるが、やはり何らかの観測データがほしいところだ。

で、マルチバース内の泡宇宙は別の宇宙だから、わしらの宇宙から見えないかと言うと、見える可能性もあるんだそうだ。別の宇宙はわしらの宇宙に接して存在している場合、見えている可能性があるという。それは宇宙背景放射の中に、例えば特徴的な円形の形で見える可能性があるという。

なるほど。もしそういう物が見えたら面白いね。そして、いまの系外惑星のように、たくさん発見されたらもっと面白いね。マルチバース理論が観測によって確認できる日がきたらとても面白い。きっとブラックホールが情報をホーキング放射で吐き出しているように、マルチバースの泡宇宙も観測から内部の情報が得られるのではないかしら。

マルチバースの泡宇宙内の時間が、外から見た時間とは異なるという説明も面白い。もしかしたら、わしの長年の疑問の答えになっているかもしれない。

ほら、よく宇宙誕生から何秒後に何が起きたとか述べてるじゃない。わしはそこで述べられている時間って、なんなんだろうっていつも思ってるの。あれって、わしらの宇宙を外から見た時間じゃないかしら。だってさあ、宇宙の始まりの超高密度とか超高温とかそういう世界の時間の進み方が、いまのわしらの感じている時間と同じとはとても思えないでしょう? わしはなんかその辺がいまいち理解できないの。宇宙学者の皆さんは、とても普通に語ってらっしゃるんですけど、どうも納得がいかない。

でもそれについて語ってくれた本には未だに出会っていません。いつか分かるのかしらね。

まあ、なんであれ、宇宙開闢当初の時間なんてのは何桁ずれていようが、野村泰紀さんの言うように、対数で考える限り、誤差の範囲なのかもしれませんが。

★★★★☆

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