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誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課

篠原匡 朝日新聞出版 2022.6.30
読書日:2022.9.24

座間市では少しでも座間と関係ある人ならば相談されるとそれを断らず、外部のNPOとのネットワークを活用して支援するだけでなく、さらにいま相談がなくても支援が必要な人をあらかじめ探るアウトリーチを行い、問題が大きくなる前に予防する活動を行っていることを報告する本。

わしはこの本を読んで、日本の貧困対策も捨てたものではない、という気がした。

生活保護というものがあるが、これはゼロか1かの対策になってしまい、中間のひとの対策ができないという問題がある。生活保護にいたる前の段階で支援できればそれに越したことはない。こうした生活保護にいたる前の生活困窮者の自立支援を行う「生活困窮者自立支援法」が2015年から施行された。それから7年経って、この本で述べられているのはその成功例だ。

わしはこの法律のことも知らなかったが、厚生労働省もなかなかいい仕事をしているではないか、という気がした。もちろん座間市の活動は特別で、実際には外部の団体に事業を丸投げというところも多いようだ。だから日本全国で効果をあげているとは言えないが、こういう制度自体を作らないと、どんな事例も生まれないのだから、これはとても意義のあることだ。

この法律がすごいのは、支援する対象の属性は関係ないのだ。年齢、性別、外国人などの区別はない。すべての困窮している人が対象なのだ。だから座間市のように、誰も断らないという活動ができるのである。これはとてもとてもよい発想で、厚生労働省はとてもよい法律を作ったのだ。

座間市の場合、相談があるとそれが誰であっても見捨てないというのもすごいが、さらに相談に来ていないが問題を抱えている人を探し出すというアウトリーチを行っているというのがすごい。相談に来る人はいいが、自分から来ない人がたくさんいるのだ。たとえば引きこもりになっている人だ。こういう人の場合は家族からの相談が多いという。

それにしても、援護課の担当している相談者の数は、ひとり80人だそうだ。大変な数だなあ、と思うが、きっちり関係を結ぶというよりは、付かず離れずのゆるい関係の場合もおおいようなのでなんとかなっているようだ。ともあれ、援護課のメンバー自体が燃え尽きないようにしていただきたいものである。

支援が必要な人の状態がひとりひとり違うというのも特徴で、例えばそれなりに収入があるのに困窮してしまう人だっている。お金の管理ができないのである。収入を目的別に管理できず、必要になったはしからどんどん使って足りなくなってしまい、借金をしたりする。こういう人には、家計を管理する方法を教えるだけで改善したりする。その結果、子供が高校に進学できる、と感激する話が載っていたりする。なんか笑ってしまうが、そういうことすらできない人がいることは確かで、お金に追いかけられると心の余裕をなくして辛いのは、とても良くわかる。

面白いのは、生活援護課課長の林星一さんが、このような仕事を選んだ理由だ。高校の先生から「これから不景気になるからよく進む道を考えるように」と言われて、高齢化が進む社会では福祉の方に進めば食いっぱぐれないだろうという、その程度の発想だったのだそうだ。その辺が過去の事例にあまりとらわれない柔軟性を発揮できた理由かな、という気がした。まあ、典型的な後知恵ですけどね。(笑)

どうかこうした事例が全国に広まって、食べ物や住むところや仕事に困る困窮者が少しでも減りますように。

著者の篠原さんは、日経ビジネスの副編集長を務めた人なんだって。へー。

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