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のんのんばあとオレ

水木しげる 筑摩書房 1977.10.25
読書日:2022.8.30

漫画家水木しげるが境港での少年時代を振り返った自伝。

最近、NKHで水木しげる関連の番組が多く出ていて(日曜美術館ブラタモリなど。偶然? それともなにか意図があるのか?)、そういえばこの本を読んでなかったなあ、と思って手にとった次第。

のんのんばあと妖怪の話も出てくるが、その内容は意外に少ない。ほとんどは水木しげるがなにかに熱中する話である。水木しげるはなにか気になることがあるととことんそれに時間を費やすという性癖があるらしく、たとえば紙相撲に熱中すると、序の口から横綱まですべての力士を実物どおりに手作りし、すべての場所を再現するのである。すると、毎日学校から帰ってから何時間もそれに費やすことになり、むちゃくちゃ忙しい。

水木しげるが熱中したのはそれだけではない。収集癖があるのだろう。昆虫採集はもちろん、貝や石なども集めていて、昆虫の標本は展覧会に出して褒められたこともある。珍しい新聞の題字を集めることに熱中したこともあるし、世界中の都市の人口を覚えることに熱中し、まとめた本を作ったりしている。

もちろん、絵を描くことにも熱中して、たくさんの絵を描いて、それをみて驚いた先生の尽力で個展まで開いている。物語を作ることも熱中して、いろんな本を自分で作っている。水木しげるの父親も小説を書くことに熱中していたそうだが、父親の方はその小説を完成させることはなかったそうだ。父親は転職も繰り返すような人だったので、ある意味、父親の性癖を一番受け継いだのは、兄弟のうちしげるが一番強かったのかもしれない。

もちろん、のんのんばあの影響を幼年のころから受けているのだから、妖怪集めにも熱中する。これももちろんやめない。生涯続けて、後年、世界中をまわって妖怪を集めることになる。

こんなことばかりに忙しかったので、勉強は全くせずに、算数は常に0点だったそうだ。

しかし子供の頃もっとも力を入れたのはガキ大将になることで、そのころ(戦前)の境港は町ごとに小さい子から大きい子までが集まった少年のグループがあって、争っていたそうだ。たぶん、日本中のほとんどの町や村はそうだったのではないかと思われる。ガキ大将になると決心して、喧嘩はもちろんだが、いろんな功績をあげて、上のクラス(軍曹とか伍長とか)に上がることに尽力している。

最終的にはガキ大将の地位を受け継ぐことに成功するが、じつはガキ大将は子どもたちを飽きさせないように遊びをプロデュースするのがもっとも大事な仕事なんだそうだ。これがかなり大変な仕事で、個人技が得意な水木しげるにはあまり向いていなかったように思える。ガキ大将の地位を受け継いだ頃には、そのグループの勢力はかなり減退していて、水木しげるの力を持ってしても盛り返すには至らなかったようだ。

その後、学校を卒業してから、あちこちに丁稚奉公をしてクビになっているうちに、兵隊に取られて送られたラバウルで原住民に気に入られて、そこに残ろうとしたが、軍医に説得されて日本に帰ってきた経緯を簡単に述べたところでこの本は終わる。なんとか生活が成り立ったのは40歳を過ぎてからだそうだ。

水木しげるの長女、原口尚子さんによれば、水木しげるは晩年、鬼太郎などの創作した内容についてはまったく忘れてしまい、従軍した頃の辛かった話ばかりしていたそうだ。水木しげるのような自由人には軍隊がいかに最悪のところだったのかということだろう。

★★★★☆

 

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