橘玲 講談社新書 2021.12.20
読書日:2022.8.25
世界をハックできたものが成功し富を獲得するが、世界の方も人をハックしようとしていて、ハックされたくないという人は経済的独立を得つつ、物を所有しないミニマリストとして生きるのが主流になると主張する本。
橘玲という人は2毛作、3毛作が上手い人だなあ、と感心します。あちこちで自分がすでに取り上げた話題を、別の視点で切り取り直して新作として出しちやう。しかも、もともと多作の人なのに、コロナのせいで旅行に行けずに暇なせいか、出版ペースが早まっている気がします。毎月なにかの本を出版してるんじゃないだろうか。著作権という無形資産がますます膨らんで、なんとも羨ましい話です。
橘玲は、ここではHACK(ハック)する、というキーワードで、恋愛術(最近繰り返しているモテ、非モテの話)、金融工学(橘玲の昔からの得意分野)、依存症、自己改造(自己啓発とサイボーグ化)を取り上げています。
この本の題名を見ると、まるで「人のやらないことをして世界をハックしろ」と読者をけしかけているようにも見えますが、全然違います(笑)。世界をハックして成功した人の実例がガンガン出てきますが、とてもじゃないけど普通の人がそんな事ができるわけもないし、成功しても幸福とは限りません。
じゃあ、どうするか、というか今後のライフスタイルの変化を、FIREとミニマリストの視点から予想しているのですが、この辺がちょっと橘玲としては新しいのではないか。
結局、ライフスタイルをガラッと変えれば、そんなに生きづらくもないよ、という方向に進むと橘玲は見ているようです。大きな家とか、車とかそんなモノに囲まれていなくても別にいいし、そうやって生活に必要なモノを最小限にすれば、生活費もぐっと押さえられます。普段の生活も楽になりますし、ほぼほぼの資産を築くことができれば、ほとんど働かなくてもいいようになるかもしれません。人が喜ぶことをして、ぼちぼちのお金を稼いでいれば有り余る時間も得られて幸福に暮らせる、そういう方向に進んでいくのではないか、ということなのでしょう。
これは、つまり、橘玲の「森永卓郎化」ですよね(爆笑)。いや、自分の言ったとおりに実践する森永卓郎と違って、橘玲本人は実践するわけでもないでしょうけど。
相変わらず、橘玲の本を読むと、参考文献の本を読みたくなりますね。この辺が素晴らしいです。
***** メモ ******
1.恋愛をハックせよ
人間も動物の一種だから、女の子は自分に備わっている遺伝によって男の子を選ぶので、一定の手順を踏むことでナンパできるとするPUA(ピックアップ・アーティスト)の話が面白い。しかしそれでもうまくできない人が出てきて、そういう人は切れて虐殺事件を起こしたりする。
2.金融市場をハックせよ
金融市場ではアノマリーがあり、他人が気が付かなかったことで富を築けるチャンスが有るということで、ヘッジファンドのソロスやサイモンズ(メダリオンのシモンズ)の話が出てくる。ギャンブル市場と金融市場の両方で活躍したソープの話はよく知らなかったので、これは本を借りて読もうかしら。でももちろん誰もがこんな事ができるわけでもないので、結局は普通のひとはインデックスファンドに投資しなさいという、いつもの話になるんですが。
3.脳をハックせよ(依存症)
依存症になることを勧めているわけではなくて、資本主義社会では人々の脳をハックして依存症にすることを狙っているということを言っているわけです。ハックされるなよ、と。
4.自分をハックせよ
過去にはやった自分の心を変える自己啓発の歴史から、自分の肉体をテクノロジーで改造する話も出て、自分を変えるということの強迫観念について述べてます。しかしもちろん自分をハックしても、欲望は抑えることができません。
5.世界をハックせよ
人々が幸福になるように積極的に世界自体を改造する、デザインする、という話も出てくるが、ライフスタイルとしてモノから脱却して、欲望を抑える方向に進むのではないかというのが結論のようです。
★★★★☆