ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

ミュージカルの歴史 なぜ突然歌い出すのか

宮本直美 中公新書 2022.6.25
読書日:2022.8.11

ミュージカルは普通のお芝居と違って物語に歌やダンスが入っており、そうするとお芝居をしていて役者が突然歌い出すという日常にはない不思議な光景を見ることになるが、それはなぜかという謎に、ミュージカルが成立する歴史を振り返りながら迫るという本。

結論を言うと、ミュージカルはもともと歌やダンスのショーがあって、そこに物語が付くという形で成立したので、こういうショーだと当然、歌手が舞台に現れてすぐに歌い出すわけだから、突然歌い出すのは別段普通であった、ということである。以上、おしまい(笑)。

まあ、現代のミュージカルなら、アバの歌を集めた「マンマ・ミーア」のように、最初に歌があって、そこに物語を取って付けたようなスタイルだったわけだ。客は、お気に入りの歌が聞ければ満足だったわけだ。

しかし、このような突然歌い出して違和感あるような状況は現代のミュージカルではほぼない。だいたい全編、歌っている事が多いし、少なくともずっと音楽が鳴っているような状況が続いているからだ。

わしは最初に自分でチケットを買って観たお芝居がミュージカルで、いまでも観るのはミュージカルばかりであり、それも現代のよくできたメガヒットミュージカルばかりだから、もちろん役者が歌うことにまったく違和感なしである。そもそもそんな疑問はTVでタモリなんかがミュージカルをからかっているのをみて、そんなことを思う人もいるんだと知ったくらいだ。

それでも普通のお芝居とミュージカルは何が違うんだろうか、と考えることはある。しかし、そんな謎は歌舞伎を観たときに氷解した。歌舞伎も単なるお芝居だけでなく、役者は歌わないかもしれないが、踊りも音楽もはでな舞台転換も何でもありである。客を楽しませようとすると、このように何でも取り込むのが普通ではないだろうか。

世界に民族の神話や伝説をモチーフにした伝統的なお芝居があるが、そういうのは大抵はダンスも歌もある。だから、逆にセリフだけですべてを済ませようとする現代の演劇こそ、歴史的に異端なのではないだろうか、とすら思う。

わしがミュージカルで驚くのは、やはり歌と脚本と演出がうまく行ったときの圧倒的な濃密さである。歌は空間も時間もキャラクターも乗り越えて共感し合う空間を作ることができるのだ。

この本の中では例としてレ・ミゼラブルの1幕終わりのワン・デイ・モアが取り上げられている。これは確かに素晴らしい。だが、わしが一番感動したのは、レントという作品の例だ。

another dayという歌で、舞台の下手ではエイズにかかった患者が自分たちの不安を話し合うライフサポートの会が開かれている。一方、舞台の中央では引きこもりのロジャーがいて、ミミが外に行こうと歌っている。不安なロジャーに、No day but today 今日を生きよう、とミミが歌う。すると、ライフサポートの参加者たちも身を乗り出してミミと一緒にロジャーを励ますように歌いだすのだ。ここで時空を超えて一体になる瞬間が描かれている。わしはいつもこのシーンで感動してしまうのでした……と告白するのも、ちょっと照れるけれど(笑)。

まあ、そういうわけで、うまくできたミュージカルはびっくりするくらい感動的ですから、みなさんもどうぞミュージカルを観てください。でもミュージカルはチケット代が高いし、最近、あまりの人気でチケットはなかなか取れないんですけどね。今年の東宝エリザベートはわしは取れませんでした。

★★★☆☆

 

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ