ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー

ブレイディみかこ 新潮社 2019.6.20
読書日:2022.1.7

中学生になった息子を中心に、イギリスの地方都市ブライトンの労働者階級の日常を描いたエッセイ。

これは面白かった。イギリス労働者階級の日常なんてなかなかリアルに表現されることはないのだが、実際に住んでいる人が、それも社会学の素養のある人が書いているんだから。

著者の息子(名前は不明)はカトリックの名門私立小学校を卒業したが、中学に進むときに、名門エリートの私立中学にも進めたが、地元の公立中学校に進むことを決断する。どうも学生が自由に創造的に振る舞っているのに惹かれたらしい。校長は学校改革に燃えていて、毎朝、校門で生徒と握手して出迎えるような人だ。

ところが、普通の公立に進むと、名門小学校ではあり得なかったリアルな人種差別や移民、貧困の問題に直面する。ようこそ、リアルワールドに。

結論からいうと、息子さんはなかなか優等生で、うまく生活を切り抜けていく。そればかりでなく、彼は問題のあるハンガリー移民の子とか貧困で食事も補助を受けている子とも関係を作って、彼らを仲間はずれにしないように気を使ういい子です。

イギリスの興味深い事情も描かれている。一家は昔からある公営住宅に住んでいるのだが、サッチャー以来、保守政権がこうした公共資産の売却を進めていて、若いパワーカップルが買い取って、リノベをして住んでいたりする。なので、昔から住んでいる貧乏な労働者と金持ち中産階級が混在しているような興味深い環境のようです。

公営住宅を売り払って、じゃあ、新しく来た移民などの貧困家庭はどこに住んでいるかと言うと高台に作った高層マンションに押し込められている。日本だと高層マンションは裕福な人が住んでいるイメージだけど、ここでは貧乏人を閉じ込めている箱のようなイメージだ。このマンションの管理がどうなっているのか不思議なのだが、中はそうとう荒れているんじゃないかと推測される。

労働党政権になっても労働者階級への富の配分は行われなかったので、みんないろいろやりくりしていて、例えば制服や体操着なんかも使わなくなったものを集めて修繕して、安く譲るようなボランティアをやっていたりする。こうした服を制服に困っている友達の子にあげようとするのだが、あげ方が難しくて、いろいろ苦労するという話が出てきたりする。そりゃ、気を使うよね。

イギリスらしく、労働者階級とエリートがくっきり分かれているもの面白い。町の水泳大会の話でも、両者は混じり合わない。私立と公立では親が座る場所も異なっていて、決して混じり合わない。競技も別々だ。なぜなら、私立の子はスポーツクラブで水泳の訓練を受けているので、競技用の水着を着ていて速い。一方で労働者の子供は飛び込みすらおぼつかない有様で、水着も海遊びで着るようなもので、まったく勝負にならないからだ。記録で順位をつけるのだが、ほとんど私立の子が表彰台に上がる中、表彰台にあがる労働者の子がたまにいると即ヒーローだ。

著者は保育士の資格を取って地元の保育園で働いているのだが、そこにいた女の子が家庭に問題があって里子に出されて、いまは裕福な家庭で私立の学校から選手として出ているのを発見したりしている。イギリスの里親制度はなんか不思議。

日本と違うなあと思うのは、中学生が政治に関心を持ってデモなんかがあるとそれに参加したがるってところ。学校によって対応が分かれて、息子さんの学校はデモへの参加が認められなかった。こういうのって日本ではあまり考えられないなあ。

1年経って、息子さんはバンドを結成してオリジナル曲を作ったり、環境問題にも興味を持つようになって、イエローでホワイトで、ちょっとグリーン、になったそうだ。ふーん。

ブレイディみかこのエッセイは「ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち」に続いて2冊め。こっちが先でこっちの方が有名。

★★★★☆

 

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