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監視資本主義 人類の未来を賭けた闘い

ショシャナ・ズボフ 訳・野中香方子(きょうこ) 東洋経済新報社 2021.7.8
読書日:2021.11.28

現代の巨大IT企業(主にグーグル、フェイスブック)は人間の情報をすべて集めてそこから利益をとるだけでなく、精神すらもコントロールしようとする邪悪な存在だとし、いま行動をとらないと人類の未来はディストピアしかないと主張する本。

最初にお断りしておきますが、わしはどちらかというとテクノロジーOK側の人間で、ズボフは大げさ過ぎると思っています。まあ、それはともかく、ズボフの主張を見ていきましょう。

グーグルやフェイスブックは、検索、メール、位置情報、SNSなどの個人情報や発言、いいね、などの情報を集めています。このような情報でターゲット広告を送って、人々にお金を使わせるだけでなく、これらの本人の入力した情報や履歴情報などのファーストテキストから分析を行い、シャドウテキスト(分析結果)を作り出しているといいます。つまり、グーグルなどは人の行動余剰という新しいデータを発見したのです。

このシャドウテキストには、どんな情報があるのかブラックボックスになっていて、それは本人にすら開示されません。また本人が削除するように言っても、グーグルは基本的にそれを削除しません。

このような行動余剰のデータを用いたシャドウテキストは莫大な利益をグーグルにもたらしていると言います。

ズボフは、それだけでなく、わしらは心までもこうした巨大テック企業に乗っ取られていると言います。つまり、このようなシャドウテキストには、たとえばこの人物がどんなパーソナリティを持っているかという情報も含まれていて、その情報に基づいて、かんたんにひとを操作できるといいます。

有名なところではアメリカの大統領選挙でケンブリッジ・アナリティカがそのパーソナルデータに基づいて投票を操作した疑惑が持たれています。(この話はもう何度もこのブログに出て来ました。他の例は知られておらず、こればっかりですが)。

データを集めるためには手段を選ばないのが巨大テックで、いちばんよく分かるのがグーグルのストリートビューの情報収集だと言います。ここで、道路からの映像は誰が撮ってもよい映像だと宣言を行い、映像の取得をいきなり始めます(収奪)。苦情が来ると、まずは無視し、情報を取得し続け、ストリートビューのアプリを矢継ぎ早に公開して誰にとっても良い行動だと主張し、やがて人々がそのアプリに慣れるのを待ちます(習慣化)、やがて我々は間違っていたなどと反省の弁を述べ、苦情のあった顔などにモザイクを入れるといった最低限の妥協をします(適応)。既成事実化すると、評判の回復を図りつつ、こんどはそれを商業化してお金に変えます(方向転換)。こうした収奪、習慣化、適応、方向転換を繰り返して、あたらしい情報収集の方法を広げていくと言います。

面白いと思ったのは、それがかつての植民地の収奪の方法だと同じだと言っていることです。これまで欧米人が訪れたことがない土地に来ると、彼らはまずここが自分たちの土地だと宣言する、というのです。そして、原住民からなんの反論もなかったことを、収奪が了解されたこととして、彼らを奴隷にするというのです。つまり、人間の行動余剰というのはズボフによれば、新しい土地と同じであり、彼らは植民地と同じ論理構造でそこを収奪しているというのです。

さて、こういうズボフの主張にどう反論すべきでしょうか?

わしとしてはグーグルがわしの好みを把握して、わしに合った広告を表示するのはまったく困りません。しかし、次のようなことがあったら困るでしょう。

わしがもしもお金に困って借金をしようと思ったとします。このとき、金融会社がわしを審査するときに、グーグルのシャドウテキストにアクセスして、わしの信用度を確認するとします。そのとき、わしには確認のしようのないシャドウテキストの内容で信用度が低いことになってしまい、お金が借りられなくなったら困るでしょう。

それだけではなく、保険をかけるときにも高い保険料を請求されたり、健康保険以外の医療を受けるための高度医療の保険も高くなったり、あるいは賃貸住宅を借りるときに借りられなかったり、レンタカーも借りられず、クレジットカードの申込みもはねられたら困ってしまうでしょう。さらに、どうしてだけなのかと理由を聞いても、その答えは返ってこないとしたら恐怖でしょう。

このようなことは実際に中国で起きていることです。中国では個人の行動を分析して、信用度の点数にして、その点数に応じて便宜が図られることになっています。アリババのセサミクレジットが知られています。

もしもグーグルからこうしたら信用点数を上げてあげると言われると、わしはその言葉に屈して、グーグルの言うことを聞いてしまうかもしれません。さらにわしの政治信条や正義感、倫理もグーグルは脅かすことにより操れることになるのかもしれません。もっとも、あからさまな脅迫はもちろんしないでしょうが。

こうならないためにはどうすればいいのでしょうか。

ズボフの解決策は、民衆が抵抗し、立ち上がることのようです。確かにそれが政治を動かして、巨大テック企業の力を削ぐ方向に行くのかもしれません。しかし、こんどは政府がその力を独占することにならないでしょうか? 今の中国のように。それこそ最悪の解決策でしょう。

さらに、いまさらこのような行動余剰の分析技術を禁止しても仕方がないでしょう。一度確立された技術はなくなることはないのですから。

ではどうすればいいのでしょう。わしの考える解決策はこうです。

まずテック企業が行動余剰から分析を行ってシャドウテキストを作成することを認めましょう。しかし、その技術を独占することを禁じます。そしてなるべく多くの企業がこの事業に携われるようにします。こうすると、企業同士の間で競争が働くでしょう。問題なのは、グーグルやフェイスブックのような特定の企業が独占することで、独占により横暴をする可能性がでてくることです。もしも競争が働くと、どこかの企業がわしの信用点数を落とそうとする動きがあったとしても、他の企業が自らの計測により別の信用点数を提供してくれるようになるかもしれません。

そしてこっちのほうが大切だと思うのですが、シャドウテキストを用いた利益は、直接市民の情報から得たものですから、その利益に対しては、通常よりも大きな税率を課すべきだと思います。例えば、それは90%ぐらいでもいいのではないか、とわしは思います。その企業の最大の資産が市民から得た情報なら、その利益は市民に返すべきです。個人本人に返すのでもいいけど、税金として取り上げるほうがまとまっていていいと思います。

そしてわしら市民側としては、自分がネット企業から常に見られていることを、許容すべきだと思います。それは街の中にあふれている監視カメラに見られているのと同じです。どこにでもカメラの目があるのと同じように、常にネットはあり、わしらはネットから見られています。それは仕方がないことだと認めることです。プライバシーに関するような邪悪な使い方をしないということだけは法律できちんと決める必要はありますが。

じつをいうと、わしはケンブリッジ・アナリティカのような心理操作はあまり心配していません。なぜなら、このような働きかけに対して、わしらはきっとしだいに鈍感になるでしょうから。(実はいまの方法でも本当に言われているほど効果があるのかわしは疑問に思っています)。

かつてテレビが登場した時、そのCMは非常に効果的でした。消費者はかんたんにCMに操られているように見えました。でも今日では、テレビCMの影響について心配する声など聞いたことがありません。CMの効果は激減し、わしらはほとんどのCMを無視しています。

同じように、政治的な働きかけもどんどん影響がなくなっていくでしょう。それは当たり前になってしまい、効果が逓減してしまうのでしょう。

それにわしは巨大テック企業が世の中の情報全部を集めることができるとも思っていません。複雑系の世の中はどこで何が発生するか予測がつかないものです。わしはこういうテック企業の情報の収集は、変化を一生懸命追いかけるのが精一杯で、能動的にどのくらい社会を動かせるのか、はなはだ疑問だと思っています。

そういうわけでズボフの主張は大げさだと思います。

わしは、ときどきグーグルアシスタントやアレクサに疑問を質問してみることがあります。しかしほとんどの質問に関して彼らの答えは「わかりません」です。まったく賢くありません。

いつもがっかりさせられているので、わしはグーグルなんかのテック企業に、もう少ししっかりやってほしいと思っているくらいです。ズボフはテック企業の実力を買いかぶっているのではないでしょうか?

気になるのは、ズボフがその企業の特許情報をよく説明に使っていることです。もしかしたら特許はその企業がその技術を持っている、もしくは開発していると思っているのかもしれません。たしかにそういうこともありますが、特許はアイディアなのであり、実現していないことも多く、エンジニアやサイエンティストの夢想に近いこともあります。そこに書かれた技術は、科学的に効果が確認されたものとはかぎりません。もちろんいちおう理屈が通っているように書かれていますが、特許の記述を本気にして真実だと思い込み、邪悪な証拠とするのはどうかと思います。

★★★★☆

 

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