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ミレニアム・ファルコンを作った男 45歳サラリーマン「スター・ウォーズ」への道

成田昌隆 光文社 2021.7.30
読書日:2021.11.3

NEC、日興証券と渡り歩いたエリートが夢を捨てきれず、いちからCGの勉強をして45歳で退社し、46歳でハリウッドデビューをすると、スター・ウォーズのVFXを担当したILMに採用され、ミレニアム・ファルコンのモデリングをするようになった経緯をつづった本。

この本の中身は上記のままなんですが、驚くのは、成田さんは結婚もしてるし子供もいるのによくCGの勉強する時間を確保できたな、ということです。

成田さんは典型的なオタク体質で、のめり込むとすべての時間を趣味に費やしてしまうような人です。たぶん彼の妻はその辺を理解していたのでしょう。いちおう「子育ても放っておかれたほうが楽でよかった」と成田さんに言っているようですが、いやいやいや、そんなはずはないと思います。

しかも彼女は、なかなかハリウッドで芽が出なかった成田さんが収入を得るためにCMの世界に移ろうとすると、「あなたがやりたかったのは映画でしょ」と、それをやめさせています。こんな素晴らしい妻をいったいどうやって手に入れたのでしょうか。ものすごい幸運なんじゃないでしょうか。

わしなんか国家公務員に転職しようとしたら、妻に反対されたんだから。なかなか国家公務員への転職に反対する人はいないんじゃないかしら。

どちらにせよ、思いのままにCGにのめり込めた成田さんはたいへん幸運だったということです。下手をしたら離婚に発展して、仕事も家族もなくしていたのかもしれないのだから。

なので、この本を参考にして、自分の好きな道で生きていこうと45歳で思った人も、挑戦するのはいいけれど、自分の事情にカスタマイズして戦略を練ったほうがいいでしょうね、当然ながら。

成田さんは子供の頃からプラモデルに夢中で、模型屋を覗いて歩くのが趣味みたいな人で、もうひとつの趣味は映画で、ビデオもない時代だったから記憶にこびりつけるように見たといいます。しかし高校では意外に普通で陸上の部活と受験勉強に明け暮れ、大学に入ると今度はミュージカルサークルに所属とけっこういろいろ経験しています。

就職はスター・ウォーズに夢中だったので、宇宙関係の事業のあるNECに技術者として採用されました。しかし、仕事が残業が多すぎたのに抵抗を覚え、バブル時代に日興証券にIT関係の技術者として転職します。そして、シリコンバレーのIT調査研究所に1993年に異動になりました。業務は証券業務に使えそうな先端IT技術の発掘、紹介。そこでゲーム関係で使うCGに出会いました。

このときにはCGと映画が結びついていませんでしたが、ピクサートイ・ストーリーを見て納得、展示会でCGソフトのデモを見て、これなら自分にもできるとソフトを即買い、ハリウッドへの転職を試みることを決意します。

そんなに簡単に行くはずもないのですが、ともかく午後6時に業務が終わると、深夜1、2時までCGに没頭、もちろん土日もCG。8ヶ月をかけて最初のデモテープを作り、あちこちに送りますが撃沈。

2回目のデモテープはエヴァンゲリオンのアスカ・ラングレーを作りましたが、こちらも撃沈。でも最初のデモよりも手応えがあったといいます。進歩はしているのです。

でも3回目のデモを作ってこれも撃沈。

その時、父親が亡くなったことで、いままで子供と触れ合うことがなかったのを反省、一緒にプラモデルを作るようになると、今度はプラモデルに熱中。子供を放っておいて、全米コンテストで1位を何度も取るまでの実力者になります。

その後、ニューヨークの事務所に異動。ニューヨークの仕事は自分に向いておらず精神的に苦しみましたが、エンターテイメントビジネスの知り合いができ、映画学校を勧められると、今度は映画作りに熱中。15分の映画を作って、傑作ができたと知り合いに送ったりしています。

こんなふうになんでものめり込んでしまうのはすごいなあ。でもやっぱりそれをさせてくれる彼の妻がすごい。

そのころ、サブプライムローンの問題が起きて、証券業界に不況が訪れると、これは証券業界から離れるチャンスと捉え(注:普通と逆の発想です)、退職して西海岸に家を買い、CGのブランクを解消するため3ヶ月の専門学校に入り、24時間CG漬けの毎日を送ります。

学校を卒業して、いろいろ仕事のチャンスを得ようとするがなかなかうまく行きません。貯金も減っていくし焦りますが、1度CMの仕事を得ると、その後はそれなりに順調で、このままCMの世界で暮らそうかと思っていたら、妻に、初心を忘れるな、と諭され、ハリウッドのVFX会社に入ることに成功、その後実績を積み上げて、チャンスがあってILMに転職、ミレニアム・ファルコンのモデラーになるわけです。

ハリウッドの仕事の仕方で面白いと思ったのは、渡される資料というのがけっこうアバウトで、足りないところはモデラーの想像力で補うことが求められているということです。へー、アメリカってきっちりしてるのかと思ったけど、そうなんだ。

それで、完全な資料がないとモデリングができない人は生きていけないそうで、著者の場合は想像力だけは満ち溢れているので、環境にマッチしているようです。なるほどね。きっとプラモデルの経験が生きているのでしょう。

まあ、そういうわけで、わしも見習って、今の仕事とまったく違う世界に転職を…って、こんなのできるか!(苦笑)

なお、アメリカで仕事をするにはグリーンカードが必要になるのでご注意ください。著者は証券会社時代に取得しましたが、なかなか大変だったようです。

★★★★☆

 

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