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目的に合わない進化 進化と心身のミスマッチはなぜ起こる

アダム・ハート 訳・柴田譲治 原書房 2021.3.22
読書日:2021.10.16

ヒトが作り上げた社会や文化のイノベーションが早すぎて、ゆっくりと進む進化は追いつけず、ミスマッチが起きていることを書いた本。

いくつかのトピックスについて、人間の進化が社会変化に追いついていないことを示している。しかし、どのトピックスも遺伝だけでは説明が難しく、複数の要素が複雑に絡んでいて、話題が豊富にも関わらず、いまいち明解性に欠ける内容。おまけにあちこち話が跳んでいるから、おもしろいトピックの羅列といった感じ。まあ、一般書としてはこれでいいのかも。

今の時点でも研究が続行している内容がほとんどなので、明解性に欠けるのは仕方がないということもある。最新の研究をきちんとフォローしているという点では好感がもてる。

(1)食料摂取関連
主に肥満について語られる。現代のような高カロリーを取ろうと思えばいくらでも取れる環境に人間の進化が適応していないことは、明らかだ。

遺伝子関連という意味では、ときどきメディアで話題になる「倹約遺伝子」についてかなりの紙幅で語られるが、未だに論争が続いて決着はついていないらしい。しかし読んでいる限りは、ほぼ都市伝説に近いのではないかという気がした。それにこの話を議論する意味もよくわからない。結局、倹約遺伝子があろうがなかろうが、限度を越えてカロリーを摂取すればまずいことになるということは変わりないので。

わしからみれば、一説にはコカイン匹敵するという、人間の糖分に対する依存症の方についてもっと議論したほうがいいのではないだろうか。わしはかなり克服できたように感じているが、この依存症からの脱却はほとんどの人にはとても難しいのではないかと思う。甘いジュースやスイーツ、ファーストフードの食べ物たちの誘惑は非常に大きい。

1万2千年前に定住が起きてからの進化について、有名な牛乳に対する耐性に関する進化の話や、逆に小麦の栽培によるグルテンアレルギーに関する話もでてくる。

(2)社会的なストレス関係
危機的な状況に対応するために進化したストレスが、現代人に大きな脅威を与えているという。現代では小さなストレス(マイクロストレス)が常時降り掛かってくる状況で、長い間に蓄積され、壮年や老年に達する頃に大きな影響を与えるのだという。現代社会と人の進化は確かにミスマッチを起こしている。

しかしこのような状況は現代特有というよりも、人間社会が誕生してからずっと続いているような気もしないではない。セネカだって時間がないと嘆いているではないか。この本でも少なくともここ1000年間は人間の生活はこんな状況だという。

人間関係の複雑さにも進化は追いついていないという。人間はお互いに協力するように社会的に進化してきたが(社会脳仮説)、この社会性も進化の限度を越えていてミスマッチしているという。とくにインターネットができてから、能力をこえた人数の繋がりができるようになったのが問題だという。

人間が対処できる人数は人間の脳の能力で決まっているが、有名なダンバー数では150人であり、他の研究でもせいぜい1000人ぐらいで、どうも数百人の桁らしい。

この人数よりも多く関わることは不可能なので、著者のおすすめは、なるべく自分にとって良くないと思われる関係は関わらないようにするということだ。逆に言うと、昔の人は選択の余地がなかったが、現代の人は多くの人間関係から自分に都合の良い関係を選択できるということだ。

わしは現実だろうが仮想空間だろうがそもそも人間関係はあまり築かないほうなので、そういうストレスは少ない。

マイクロストレスにしても、わしはさいきん、先延ばしにできるものはなんでも先延ばしにすることにあまり罪悪感を覚えなくなった。これができるようになってからストレスがかなり減った気がする。ほとんどのことは死ぬまで先延ばしにできるんじゃないかしら(笑)。

(4)暴力
人間は異常に暴力的に進化してきたという。霊長類は他の生物に比べて全般的に暴力的なようだ。まあ、確かに現代では暴力性はミスマッチかもしれないけど、実際に暴力に出会うことが少ないのでいまいち実感がないな。

面白いのは、人間社会の暴力が減っているというピンカーの主張(「暴力の人類史」)に対する反論だ。ピンカーはいろいろな数字をあげて人類の暴力が減っていることを示すのだが、これが単なる数字のスケーリングに過ぎないという人類学者ラウル・オーカの反論が紹介されていて興味深い。

100人の部族が戦争を行うのに25人の大人の男性が加わると25%の参加率だが、100万人の国で戦争を行ってもその比率のまま25万人が戦争に加わるわけではない。それよりも少なくなるのは確実なので、単純にスケーリングにより比率が下がっているように見えるだけなのだという。実際には戦闘で死ぬ確率は昔も今も同じだという。

なるほど。でも逆に言うと、人類の人数が増えると暴力に関わる確率は減るということだからそれはそれで意味はある考察なんじゃないかな。

ピンカーの「暴力の人類史」はずっと読むべき本のリストに入ってるんだけど、やっぱり読まなくちゃいけないかな。

それにしても、人間の拳が効率的にパンチできるように進化したと研究する人がいるらしい。ちょっとありえない発想だけど、著者も人間は暴力に使えるものはなんでも利用しているだけ、という。

(5)依存症(嗜癖
依存症はほとんど脳の報酬系に作用する化学反応で、人間は昔からこれを利用するように進化してきたという。

たとえばアルコール。

アルコールが消化できるようになったのは1000万年前のまだ猿の時代らしい。熟れすぎて自然発酵した果実を食べられるように進化したためだそうだが、すぐに分かるように、自然の果物の中のアルコールでは濃度が低すぎてほとんど問題がないという。

ところが人間は技術力でいくらでも濃いアルコールを生産できるようになり、店で簡単に手に入るようにしてしまった。こうしてミスマッチが生まれているという。

コカインも、原住民がやっていたように自然のコカの葉を噛んでいるだけでは全く問題がないのに、たくさんのコカの葉を集めて複雑な工程を経て、純粋に大量に精製する技術を開発したのが問題なのだ。

ギャンブルなどの行動系の依存症も、オンラインでギャンブルができるなど科学はますます依存症を加速する方向に進んでいる。

まあ、確かにミスマッチかもしれないけどねえ。わしは自分が株取引依存症を自覚しているし、スマホがそれを加速していることも理解できるが、やめる気はさらさらありません。いいじゃん、依存症で。

それよりも糖分依存症をなんとかしないと(しつこい(笑))。

★★★☆☆

 

 

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