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無人島に生きる十六人

須川邦彦 青空文庫 2004.5.8 (底本 新潮文庫 2003.7.1、親本 講談社 1948.10)
読書日:2021.10.10

明治32年、漁場の調査に出た龍睡丸(りゅうすいまる)がハワイ列島のパール・エンド・ハーミーズ礁近海で遭難し、乗組員16人がひとりの死者も出さずに無人島で規則正しい生活をして、全員が肉体的にも精神的にも健康な状態で生還したという実話。

この本は少し前にネットで椎名誠がらみで話題になっていて、わしはさっそく青空文庫版をダウンロードしていたが、そのままになっていた。得てしていつでも読める本は後回しになり、なかなか読まないことになるのだ。

ところが、会社の同僚に読書好きがいて、ときどき面白かった本を紹介しあっているのだが、その人がこの本は面白かったからぜひ読んで見るようにというので、さっそくダウンロードしておいた青空文庫版を読み始めたが、たしかに文章も昔の本にしては読みやすいし、内容もとても良かった。

時代は明治時代だが、この時代は国際社会で自分は日本人だという感覚を強烈に持っていたというのが、文章のあちこちにあふれている。ひとりひとりが日本という国を背負っているという気概にあふれているかのようだ。こんな感覚を現代で味わうことはめったに無いだろう。

途中、船が破損してハワイに寄るのだが、このときも日本人として堂々と行動しようという感覚があふれていて、そういう規律ある船員たちの態度でアメリカ人が感心したとか、そんなことが記載されている。そういう感覚はちょっと懐かしいような、独特の感覚だ。このころは日本人はこういう緊張感をもって日本国外に出ていたのだなあ、と思う。船の修理代はなんと地元の日系人の寄付で賄ったというのも驚き。日本人、団結力強し。

船員には小笠原諸島帰化人がいて、小笠原諸島はむかしはアメリカの捕鯨船の基地で、小笠原が日本の領土になったときに、その島で生まれた人の中にはそのまま日本人になった人がいたということだ。この人達はベテランの船員ということでとても尊敬されている。なので、船員の人種的多様性もある。もしかしたらグローバルな感覚はいまよりも明治時代のほうが優れているのかもしれない。

遭難してから無人島にたどり着くまでもなかなかの冒険だが、無人島についてそこで生活することを決心したあと、船長は全員の健康、とくに精神状態に気を配り、弱気で悲観的な状態にならないようにしていたのが印象的だ。毎日ほがらかに暮らすことが決められたりする。

沖を通る船にすぐに合図を送れるように交代で24時間の見張りをするのだが、深夜にひとりでいると弱気の虫が襲ってくるので、深夜の見張りはベテランの船員が買って出たりと、船員間の協調も抜群だ。健康面でも、周辺には魚やアオウミガメなど食料は豊富だが、食べすぎないように腹八分目にするように決めたりしている。

一日中仕事を割り振って忙しく働き、実習生の船員もいたので勉強の時間も作り、字の練習、数学の勉強、そしてアメリカ人の船員がいるから英語の学習もしていた。しかしどうも一番人気は、それぞれの船員が体験した過去の話を代わる代わるした体験談だったらしい。そして新しい知識を得るのに、ベテランも若手の話をきちんと聞いていたことで、上下関係も良好だったようだ。この学習の結果、字を知らなかった者も、帰国後に家族あての手紙を自分で書けるようになったという。勉強のための道具は工夫して、インクを作ったりしている。

面白いのは、救助されたときにボロボロの服ではみっともないということで、遭難時に着ていた服は大切に保管しておいて、島では裸で暮らしたということだ。こういう恥ずかしさを忘れずに行動しているところが面白い。(同じような話はこの本にもあった。すると発見時の服装の心配は遭難者に共通の思いなのかも)。

記憶していた海図から、近くに島があるということで小さなボートを漕いで島を発見し、その島では流木などの特産品が取れるので常時3人を交代でいることにしたが、そこでも船員たちは指示者がいなくても自律的に規律正しく作業を行ったという。

アザラシがいたけど、アザラシは最後の食料として捕獲しなかったので、アザラシと仲良くなりなついたが、救助され島をはなれるときにはアザラシたちがそれに感づいて海を泳いで追いかけてきたという。それで救助したほうの船が感心したという。

しかし、明治時代に16人が遭難して無事に帰ってきて、しかも規律を失わずに健康だったという話があるとはねえ。この話は一時、社会から忘れられていたけど、また復活した。きっとこれからも折に触れて、復活するんじゃないだろうか。話も面白いし。

なによりグローバル社会における昔のちょっと懐かしい日本人の感覚が味わえる点で貴重かも。

★★★★★

 

 

 

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