マット・アルト 訳・村井章子 日経BP 2021.7.26
読書日:2021.9.19
80年代のアメリカで日本の文化に耽溺して成長した著者が、戦後の日本文化がいかに世界、特にアメリカに影響を与えてきたかを検証した本。
いちおう2020年まで書かれているけど、中身のほとんどは本人が経験した80年代のアメリカに関係したエピソードが大きく取り上げられているのは、まあ、仕方がありません。
取り上げられているのは
・1945−1990まで おもちゃ、アニメ、カラオケ、キティなどのかわいいデザイン、ウォークマン
・1990−2010 女子高生、アニメ新世紀、ゲーム、2ちゃんねる
・2010年代 とくに何もなく総括
などだが、1990−2010年の話をしていても、すぐに80年代に戻ってしまっているので(特にアニメとゲーム)、ほとんど80年代を書いた本だと言ってもいいくらいです。日本人ならいまさら目新しいことはないですが、どんなふうにアメリカに影響が及んだかというのは、まあ面白いかもしれない。
とはいえ、戦後直後の模型のおもちゃを開拓した小菅さんとか、カラオケの発明者が何人もいるとかは全く知らなかったので、そういうところは面白かった。
おおむね明るい話が多いけど、このなかで異質な感じがするのは、2ちゃんねるについて述べたところ。ちょっとアニメやゲームにくらべて熱量が足りない気がする。たぶん本人は、さほど2ちゃんねるの文化にのめり込まなかったのじゃないかな。
もちろんきちんと調べてあるが。
それに他の文化が明るくて、輝かしい頃の日本を代表しているのに比べて、2ちゃんねるは低迷する日本を表している上に、アメリカに与えた影響の書き方もかなり暗いということもある。
なにしろ、2ちゃんねるを真似した4chがアメリカで誕生したが、その文化は結局、トランプを生んだ貧困層の白人を惹きつけて、トランプ大統領の誕生や人種差別の激化にもつながったかのように書かれているのだ。
やっぱり人種差別につながるように書かれると暗く感じる。
たしかに、匿名掲示板の文化が日本由来で、白人貧困層のトランプ化を用意したということはあるかもしれないが、これが日本文化の影響と言われてもちょっとピンとこない。プラットホームは日本の文化だったかもしれないが、匿名掲示板はなんでも入る入れ物だから、もともとアメリカにあった人種差別の要素が入っただけだろう。
まあ、いろいろあるが、日本の文化は常に世界の一歩先を行っていたというのが著者の主張だ。だが、今後も一歩先を行き続けるのか著者も確信はないようにみえる。
そこで、わしが持ってる今後の日本の印象を書いておこう。
少子高齢化がこれまで日本を暗くしてきた。しかし、今後は少子高齢化なのになぜか明るい日本が話題になるのではないかな。日本はすでに気分的に少子高齢化を脱出しているのではないかと思う。現実にはこれからますます悪くなるわけだが、気分のほうが先に転換しているような気がするのだ。もうそれは分かったから次にいこう、てなノリで。そういう意味では日本はやっぱり一歩先を行ってる。
えっ? 楽観的すぎる?
知らなかったんですか。投資家のわしは常に楽観的なんですよ。
★★★☆☆