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なぜ生物は生きようとするのか 新基礎情報論を読んで考えたこと

すまん。内容は題名とは異なっている。わしがこれから話すのは、別に生物は生きようとしているわけではない、という話なのだ。

新基礎情報論で著者の西垣は「意味」とは何かについて述べ、結局それは、「生物にとっての価値/重要性」なのだという。

そうすると、生物なのだから、きっと生きていくこと、生き続けていくことに価値があるだろう、ということになる。そこに価値があり、そこから意味が生まれるのだろう。それは間違いない。

ただ、だからといって、生物は生きようとしている、つまり生きようという意思を持っているかというと、そうではないという気がするのだ。

これはわしらが普段見ていることに反しているように思える。動物だろうが植物だろうが、多細胞生物だろうが単細胞生物だろうが、もしかしたらウイルスすらも必死に生きているように見える。だいいち死の危機に直面した生物は、たいてい生き延びようとジタバタするではないか。

これは生物のどこか根源に、たとえば遺伝子のなかに、生きようという強力な因子があり、生命力とでもいうものを生み出しているのではないか、という気にさせる。

もしかしたら、そうなのかもしれない。いつの日かそういうものが見つかるのかもしれない。あったとしても矛盾はない。

だが、そういう因子が特になくても、やはり矛盾はないのだ。

どういうことか。

ダーウィンの進化論によれば、ある生物が生き延びるのはその生物が生きようとしたからではない。その状況に適応していたからだ。意思はあってもいいが、なくても問題ない。意思があろうとなかろうと、たまたまその環境に適応していれば生き延びるのだ。

そうすると、これは生きようとするゲームではない。なるべく死なないようにする、というゲームなのだ。生きようとするのと死なないようにするというのでは、積極性の観点から微妙にニュアンスが異なる。

死にやすい生物と死ににくい生物がいれば、死にやすい生物は本当に死んでしまっていなくなり、死ににくい生物が残る。生物たちはますます死ににくくなるだろう。そして死ににくいシステムを発達させる。こうしたシステムの中には、死にそうになったらジタバタするというシステムも含まれているかもしれない。もしそのほうが死ににくいのなら。

あなたが死の危機に直面するとする。たとえば、車に轢かれそうになる。すると危機を回避するためのシステムが発動する。まず脳は色の処理を省略する。色の処理は時間がかかるからだ。あなたは白黒の世界に生きることになるが、そのかわり画像を処理する時間が短くなり、脳内映像のフレームレートが上がる。これまで1秒に20枚程度の映像しか処理できなかったが、60枚とか100枚とか、そんな数になる。きっと時間がゆっくりと流れているように感じるだろう。アドレナリンがあふれて、心臓の鼓動も早くなる。こうして危機を回避しやすくする。

まあ、こういう瞬間的な危機もあれば、気候が変わって食料が減っていくというような長期の危機もあるだろう。そのために、移動するとか、消費カロリーを少なくするとか、新しい食料を開拓するとかの適応がありえるだろう。

こうした危機回避のためのシステムは、ないよりもあったほうが死ににくいだろう。死なないようにジタバタするシステムは細菌、プランクトンのレベルから人間のような大型の動物にもあるし、それに動物だけではなく植物にもある。すべての生物はなるべく死なないようにしようというシステムを持っている。その様子を観察すれば、あたかもすべての生物は生きようという意思に満ち溢れているように見えるだろう。

同じように、生物が周囲の情報処理をするとき、死なないことに役立つ情報処理が行われるだろう。それが、「意味」ということになる。生きようという意思があろうがなかろうが、その情報に意味があるのなら、それを活用した生物が生き残るだろう。

つまりこういうことだ。

いったん生物というシステムが確立したら、つまり代謝して遺伝子を(ときには改変して)次世代に伝える進化というシステムが確立したら、進化論のルールが働いて、生物はまるで生きようとしているように見えるように進化する、ということだ。

生物の根源に生きようする生命力の因子はあってもなくても同じ結果を生むことを考えると、きっと存在しないんだろうなという気がする。なるべく死なないようにする無数のシステムがその代わりなのだ。

こんなことを考えていると、じゃあ、わしらが生きていることになにか意味はあるのか、という気がしてくる。

わしは生きていることに特に意味はないと思う。わしらはただ生きているのだ。意味はない。ちょっと残念な気もしないではないが、とりあえずはそれで十分だろう。

 

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