ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

混迷の国ベネズエラ潜入記

北澤豊雄 産業編集センター 2021.3.22
読書日:2021.8.28

無能な左派政権により国家が破綻寸前と言われるベネズエラに潜入して、国民の生活は意外に普通であることを報告した本。

昔(19世紀ぐらいまで?)の冒険者というのは、未知の土地にでかけて、そこにいる住民や動物、鉱物などについて報告する人のことだった。現代の冒険者とは、戦争、犯罪、テロ、難民、経済崩壊した国など、普通のジャーナリストも危険なのでなかなか行けないところに行って実情を報告する人ということになってしまったのかもしれない。

経済崩壊した国家として知られている国にベネズエラがある。ベネズエラは、まるでアイン・ランドが小説「肩をすくめるアトラス」で書いたことが実際に起った、と言われる国だ。

左派政権が自由経済を無視して、貧困層に極端な分配政策をとったため、国家財政が破綻し、猛烈なインフレと産業の衰退が起きているといわれている。原油の埋蔵量は世界有数なのに、設備のメンテナンスをしていないため産油量が激減、石油を輸入しているという笑えない話もある。

国民が大量に国外に逃げ出していて、彼らの言葉からは絶望的な雰囲気が漂ってくる。そのイメージはこんな感じだ。経済はストップしてビジネスは不可能になり、失業者や貧困層があふれ、餓死者が発生し、麻薬組織とテロが渦巻く犯罪国家になっている、、、そんなイメージだ。

北澤氏はそんなベネズエラへ行き、実際にどうなっているのか見てみようと思った人である。実に奇特な人である。

なにしろ危険と言われているので、協力者の確保が欠かせない。北澤氏は隣国のコロンビアに滞在していたことがあり、その人脈を使ってベネズエラに協力者を得ようとしたが、なかなかうまく行かない。コロンビアにはベネズエラから逃げてきた人が多数いるので、なんとかなりそうなものだが、どうも外国人と関係しているだけで危険と思われるらしいので、なかなか難しいのだ。

このコロンビアでは日本食レストランの社長(日本人)と懇意にしていて、彼はいろいろやってくれるのだが、思いつきでなんともいい加減なプランをでっち上げるような人物で、危険なところにわざわざ行くべきだと行って送り出して、無事に帰ってくると驚くような人だ。もっとも北澤氏も準備不足というかいい加減なところがあるので、まあ、お互い様なのかもしれない。

結局、現実的なプランを出してくれる人がいて、何回かベネズエラに滞在することができた。しかし、その目で見てきたベネズエラは、なんともこちらの期待を裏切るものなのだ。

確かに犯罪はたくさんあるし、役人は腐敗していたりするが、中の人の生活は意外に普通なのである。スーパーには商品が大量に並んでいるし、レストランもやってるし、サッカーリーグも行われているし、地下鉄も走っているし、高速道路には車も走っていて渋滞している。

驚くのは、ハイパーインフレーションのおかげで紙のお金は重すぎて事実上持ち歩けないので、カード決済、あるいはスマホ決済が発達していることだ。銀行の口座からその場で引き落とすデビッドカードの方式だが、誰もがこの方法で支払っている。確かにこれならハイパーインフレーションでお金を持ち運ぶという苦労はない。IT技術はハイパーインフレーションの困難を克服するのだ。

社会の中では富裕層と貧困層の生活は以前とあまり変わっていないようだ。富裕層は海外に資産があるのだろうか、そんなに変わっていなくて普通にスーパーで買い物をして、レストランで食事をしているようだ。いっぽう貧困層も昔から貧困なので、あまり生活に変わりはないらしい。

悲惨なのは中間層で、つまり給与で生活している人だ。インフレが激しくて、日本円に換算して数万円あった給与が数百円のレベルに下がってしまった。さすがにこの収入では暮らしていけないので、副業をやったりしているが、追いつかない。

こういう人が国を脱出して、国外で働いて家族に送金すると、それだけでその家族はけっこうましな生活ができたりする。

一方で、役人も給与生活者だから、困窮していくが、当然ながら人々から金を絞りとろうとする。犯罪者よりも警察やなんらかの認可権をもっている役人のほうがたちが悪いという。

驚くのはインフラは徐々に劣化しているものの、いまだに機能していることだ。電気はよく停電が起きるがまだ提供されているし、インターネットもできる。高速道路は建設時の作りがしっかりしているので、隣国のコロンビアよりもましな状況だという。地下鉄も動いていて、乗ることができる。

面白いのは、こうしたインフラの提供は国民の不満を和らげるためにやっているようで、きちんと料金を徴収していないことだ。何年も電気代を払っていないという人がいたり、地下鉄にお金を払う人がおらず、人々は改札を勝手に乗り越えて乗ってしまう。じつは切符を作るための紙がないのだそうで、売ろうにも売れないらしい。ときどき切符があるときに売ろうとするが、当然誰も払おうとしない。

こうしたインフラも更新投資はされていないだろうから、そのうち徐々に劣化して使えないくなるかもしれないが、とりあえずはいまは使えていて、ひとびとはそれなりに生活している。

ここが左派政権の面目躍如なのか、政府は食料を袋や箱詰めにして配布したり、ガソリンは無料だったりしている(ただし行列がすごい)。そういう分配政策を積極的にやっているのだ。

こんな状況でも若者は夜の店に集まって、ダンスをしたりして遊んでいる。北澤氏はここで美女と知り合って、美術館巡りのデートをし、その日のうちにホテルに誘われ、シャワーを浴びているうちに全財産を盗られたそうだ。困った事態になったわけだが、なんとなく旅にありがちなおいしいネタとして扱っているようにも見える。

ともあれ、ここでわかるのは、国家経済が破綻しても国民の生活は続いていて、意外に普通であるということだ。人々の生きて生活が続いていくうちは、経済は回るのである。

さて日本も国家財政が破綻すると言われて久しい。日本政府が破綻することと日本という国家が破綻することは別だから、この不安はまったく間違っているのだが、まあ、仮に日本国家自体が破綻したとしても、この事例を見る限りそんなに心配する必要はないのかもしれない。

戦争なんかでインフラが徹底的に破壊されると生活は悲惨そのものになるが、単に経済的に破綻しただけなら、過去のインフラ投資が生きて、しばらくはそれなりに快適に暮らせそうだ。そうならば、過去の資産が残っているうちに、国民が付加価値をつける製品やサービスの提供を行うのなら、国家としてもきっとやっていけるに違いない。

何よりも日本ではほかの社会的インフラを失ったとしても、教育インフラは絶対に手放さないだろうと確信できる。食べていけて、教育が続くなら、なんとかなる気がする。

これまでもロシアなどのかつての共産国圏の国々、財政が破綻したギリシャキプロスなどいろいろな国が経済的に破綻した。もちろん自分ではどうしようもない運命に見舞われ苦労した人はたくさんいるだろうが、経済的困難などは、戦争に負けたり外国に占領されたりする安全保障的な困難に比べると、そんなに気にする必要のない話なのかもしれない。

★★★☆☆

 

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ