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教養としての地政学入門

出口浩明 日経BP 2021.3.1
読書日:2021.6.13

立命館アジア太平洋大学学長の出口さんが、豊富な教養をもとに、地政学の基本的な考え方を、実際のマハンやマッキンダーの著作に基づいて解説した本。

きっとこの本に地政学を期待して読み始めたら、なんのことだと思うだろう。最初のうちは、なぜ地政学が必要かという話があり、国家は引っ越せないから、と明快に語るところはいい。

しかし、その後、陸の地政学と海の地政学に分けて話をするのだが、陸の地政学とは自分がサンドイッチの具にならず、いかに相手をサンドイッチの具のように挟み込むかであると定義し、その状況に関して延々と歴史的な話をする。さらに海の地政学とはシーレーンを確保することだと定義し、延々とシーレーンを制する歴史の話をする。しかも大体がヨーロッパ、中東の話なので、少々うんざりする。

そういうわけで、およそ3分の2ぐらいはそういった歴史の話を聞かされるので、これが本当に地政学の本?、と思うわけだが、どうも本物の地政学の本も、歴史の話が大きな割合を占めるようなので、まあ、そんなものかもしれない。

いちおう、中国とインドの地政学的な特徴についても記載がある。しかしなぜかアメリカ合衆国地政学的な特徴についてはなんの記述もないようだ。どうして? アメリカはただ最強の海軍力を持ってシーレーンを制していることだけが強調されている。アメリカの国としての地政学的状況にはなんの問題もないので、述べるに値しないと思ったのかもしれないが、いちおう述べておかないとおかしいのではないだろうか。(まあ、アメリカに関しては本当に問題はないんだけどさ)。

たぶん、本書を読む人には、第4章の日本の地政学に関するところがもっとも重要だろう。

日本は地理的にロシア、中国、北朝鮮、韓国、台湾を接していて、太平洋を隔てて隣国としてアメリカがいる。アメリカ以外とはすべての国と国境に問題を抱えていて、非常に厳しい状況だという。こういう状況を放っておくというのは、普通ならあり得ないが、日本の場合はアメリカという最大の同盟国があるので放置しているという。

また日本が同盟を結ぶ相手としては、日本の国としての規模を考えると、アメリカ、中国、EUしかあり得ないという。しかし中国とは政治体制が違いすぎて同盟は成り立たないし、EUは遠すぎて同盟を結ぶ意義がそもそもEU側にはないという。したがってアメリカ以外は今のところ選択肢がない。

しかし、アメリカはいつでも日本を切り捨てて、中国と手を結ぶことが可能なので、そういう可能性も留意する必要がある。今はありえない可能性かもしれないが、長い年月のうちにはそういうことが起きることも想定に入れて置かなければいけないという。もしアメリカが日本を切り捨てるのなら、日本には周辺に味方がいなくなってしまうので、とても厳しい状況になるだろう。

こういう中で、日本の生きる道はグローバリゼーションに貢献することだという。つまりは世界に貢献する日本を目指すということだ。

第5章ではマハンとマッキンダーの著作を紹介しているが、とくにマッキンダーハートランドユーラシア大陸の中央部のこと)について説明していて、これはとてもわかりやすく解説してあって、いい。マッキンダーハートランドの話は、今流行のメタ歴史の走りだという説明には納得だ。

ハートランドとは文字通り心臓部のことで、ここを制すると全てを制するという場所のことだ。これまでは陸は移動が難しく、海のほうが船を使って移動が簡単なので、海に接する周辺部が栄えてきた。しかし技術の発達で、たとえば鉄道などを使うと簡単に大量に兵や物資を送ることが可能になった。この技術変化のおかげで、ユーラシア大陸の中央部を制すると、周辺部のイギリスや日本などを脅かすことができるという。簡単にいうと、騎馬兵でユーラシアを制したモンゴルの再来が起こりかねないということだろう。なので、歴史的なパラダイムシフトを迎えているので要注意だという話。

まあ、これは20世紀初頭の話で、航空機や宇宙技術も含めると、必ずしも今でも当てはまるとは思えないけど、発想としては面白い。

こんなふうに考えると、歴史というのはなかなか便利な器だなあ、と思う。歴史には人間の行いが全て含まれるので、政治や戦争はもちろん、科学技術や宗教や哲学もなんでも含まれる。

地政学をメタ歴史の話ととらえる出口さんの見方も、出口さんが歴史好きだからだろう。あまり歴史好きとは言えないわしにも、メタ歴史ならなんとかなるかな。でもくどくどヨーロッパの歴史を聞かされるのは、やっぱりちょっとなあ(苦笑)。

★★★★☆

 

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