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個人投資家目線の読書録

家は生態系 あなたは20万種の生き物と暮らしている

ロブ・ダン 訳・今西康子 白揚社 2021.2.28
読書日:2021.5.18

生態学者がひとの家の生物を調べたら、とんでもない量の新種が発見され、人間が生物に囲まれて生活していることを実感する本。

身の回りにどんな生物がいるかという問題は、生態学者の興味をまったく惹かないという。彼らは熱帯雨林などの、遠い世界の生態に憧れて、身の回りの生命に興味がないのだ。著者は、生態学者は遠視なのだという。近いところが見えないという皮肉だ。

最近は技術の発達のおかげで、どんな生物がいるかを、とくに遺伝子レベルで簡単に、詳しく分かるようになった。コロナウイルスで有名になったPCR検査という方法だ。これは遺伝子の数を増幅して解析するので、少量の遺伝子でも解析できる。

そこで、著者はアメリカ中の家庭に協力を、依頼し、家のあちこちを綿棒でこすって送ってもらった。そして綿棒についた遺伝子をPCR検査で調べたところ、名前もついていない未知の細菌の遺伝子がたくさん見つかったという。

しかしこれらの生物は生態学者だけでなく、一般の人の関心も惹かない。なぜならそれらの菌が無害だからだ。人間は自分に悪さをする菌には注目するが、無害な菌にはまるで無頓着なのだという。しかし人間にとって害のある菌は100種類ほどしかなく、残りの何万種という菌の生態はまったく不明のまま放置されている。

面白いのは、ガスの給湯器付近には、高温に耐えられる耐熱性の菌が住み着いていたりするんだそうだ。いったいどこからどんな経路で来たんだろうか?

身の回りで知られない生物の話として、ペットの話も出てくる。著者はある学生に、犬と一緒に生きている生物のリストを作るように指示した。見込みでは数ヶ月でそのリストは完成し、猫やその他のペットのリストも作るはずだったという。ところが、その学生はその研究で学士を取り、博士号をとってもまだ犬のリストは完成せず、就職してからも相変わらずそのリストを作り続けているのだという。いつ完成するのか、見込みは立っていない。

同じペットでも、ネコの寄生虫であるトキソプラズマはちょっと恐怖だ。この寄生虫はマウス経由でネコの腸に達する寄生虫だが、マウスの脳にいるときにはマウスの性格を冒険的に変えて、ネコを怖がらなくするという。そしてネコに食べられるようにする。この寄生虫は人間にもかかるが、どうも人間の性格も大胆になるように変えてしまうようだ。この寄生虫の影響を受けると、冒険的になり冷静さが必要な管理職には向かないので出世はできにくくなり、さらには交通事故に合う確率も高くなるという。

というわけで、このくらい身の回りは未知の生物であふれているわけだ。

このような細菌や真菌(カビのこと)や虫たちのことを話すと、一般の人たちはこれらの生物たちを駆除することを考えるという。しかし、著者の考えは逆で、これらの虫や菌をいったん駆除すると、そこはまったく競争のない社会になり、人間に害のある虫や菌が逆にはびこるということだ。

その具体例としては、チャバネゴキブリが興味深い。チャバネゴキブリは東アジア発祥らしく、ヨーロッパに入ったのは中世の頃らしい。以降、人間はあらゆる駆除剤を用いて、このゴキブリを駆除してこようとした。しかし、駆除剤はゴキブリだけでなく、他の虫たちをも駆除した。ところが、肝心のゴキブリは素早く進化して、駆除剤に対する耐性を身に着け、他の虫がいなくなった楽園で大幅に増えたのだった。

チャバネゴキブリは自然界ではまったく強くなく、いろんな動物や虫たちに食べられるか弱い存在だという。ところが人間が殺虫剤を撒くような屋内では、強烈な強さを発揮するのだそうだ。つまり人間がわざわざゴキブリの繁栄する環境を作ってあげているのだという。

アレルギーでも同じようなことが言える。アレルギー予防では害のない多数の菌に曝露していることが大切なのだという。なので、裏庭を作って、さらにその土壌をいじると菌に触れるのでアレルギーには効果的だという。

単純にいうと、わしらの生活環境にも生物多様性が必要で、そうでないと、わしらの健康は保てないということだ。

そういう意味では、きれいな水の定義も作者は一般の人のイメージとは異なる。普通の意味のきれいな水とは、塩素などで十分殺菌した水のことである。しかし、著者の定義では、生きている細菌がいる水のことである。塩素で殺菌すると、塩素に耐性のある菌が残り、それが大々的に繁殖するということが起きる。

それでシャワーのノズルには塩素に耐性があり、高温にも平気な菌が集まったシート状の「ぬめり」が形成されているという。ヨーロッパでは、帯水層から取り出した水は塩素処理されずにそのまま水道に使われるという。細菌はいるが安全なんだそうだ。

この著者には他にも興味深い本が何冊もあるようだ。チェックしてみようかな。

★★★★☆

 

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