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ケーキの切れない非行少年たち

宮口幸治 新潮新書 2019.7.12
読書日:2021.5.9

IQは普通なのに、認知力の低い子供たちが15%程度存在し、その子達は学校の授業どころか社会生活も困難で、そのため犯罪を犯しがちであるが、一日五分程度のわずかな訓練で多くの子どもたちを救えると主張する本。

著者は児童精神科医で、医療少年院に勤務している。そこで、例えば「ケーキを同じ大きさで3つに分けなさい」という問題を与えると、それができない子が多数いるという。

こういう子どもたちは、通常のIQテストをすると、80程度と知能的にはさほど問題がない結果が出る。ところが認知力のテストをすると、まったくできない。

認知力のテストには、たとえば、ある絵をそのまま写すテストがある。これができない。なので、そもそも黒板に書かれていることをノートに写すことはまったく不可能である。とうぜんながら、漢字のような絵文字的な象形文字を覚えることができない。

また因果関係的な見通しを持つことが難しく、こうしたらどうなるという想像力がなく、将来の計画を立てることもできない。

また社会的な認知力も低く、他人の意図を読み取ることができない。なので、自分のことを笑っているとか悪口を言っているとか誤解して、他の可能性を考えることができない。

彼らは非常に騙されやすく、また短絡的に犯罪を犯し、しかもなぜ悪いのかも理解できず、反省以前の状況だという。

著者によると、こういう子どもたちが、14〜16%程度存在するという。アスペルガー症候群発達障害などは社会的に理解されていて支援もあるが、こういう認知力が低い子供たちは、IQ的には問題ないので、まったくなんの支援も受けていないという。

だが、このような認知力は、比較的簡単な訓練で状況の改善が可能だという。一日五分程度の訓練を毎日するだけで、そうとう改善できるようだ。これはとてもいい知らせだ。

しかも、こういう子どもたちは自信が無くなっているだけで、学ぶことを覚えると、どんどん自分で新しいことを学んでいくという。

訓練の中には、まるで言葉遊びのようなものもあって、ほんまかいな、というものもある。

例えば、感情のペットボトルという訓練。

いろんな大きさのペットボトルに水を入れてそれに「怒り」とか「うれしい」とか感情を書いておく。このとき、怒りのペットボトルは大きなものに水をいっぱい入れておく。うれしいのペットボトルは水を入れずに軽くしておく。

リュックにこれらを入れて運ばせると重い。そこで中からペットボトルを選んで出させると、重い怒りのペットボトルを外すと軽くなる。これで怒りの感情はしんどくて、怒りの感情を降ろすと心が軽くなることを分からせる、というのですが、、、

えー、本当にこういうので効果があるのかしら? ちょっと疑問を感じるなあ。

まあ、ともかく、どうやら人間という種は、15%程度、このようなちょっと脳の認知力に問題がある人たちが含まれているらしい。こういう人たちがいるというのは、進化論的にどういう意味があるんだろうか、などとわしは考えてしまう。サイコパスなどは存在意義がありそうな気がするが、こういう認知力が低い人にもなにか進化論的な意味があるのかもしれない。

だが、著者は医者なので、当然ながら著者の関心は、彼らの能力をどのように改善して、助けることができるか、ということなので、このような疑問には答えてくれないのであるが。

★★★★★

 

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