野口悠紀雄 講談社現代新書 2017.4.1
読書日:2021.4.13
日本経済の問題点は、高齢化と情報産業への産業構造転換に成功していないことであり、デフレは問題ではなく、日銀の金融緩和は的はずれな政策だと主張する本。
わしはなにしろ敬愛する野口先生のゆるーい追っかけである。なので、ここに記載してある内容は、雑誌などですでに発表しているから内容は理解している。今回まとめて新書判を読んでみたのは、横浜電子図書館で見つけたから(またか(笑))。いや本当に電子図書館、便利。
2017年という4年前の内容であるが、もちろん古びてはいない。それどころか、コロナ禍でますますこの論点がはっきりしてきたんじゃないかと思う。政府すらも日本のデジタル化の遅れに危機感を覚えて、デジタル庁を創設しようとしているんだから。
しかしまあ、4年経って、この先の日本で見えてきたこともある。
まずは高齢化の問題だが、これは高齢者のうち働ける人は働くという方向で解決されるだろう。というか、年金で食べていけないから、働かざるを得ない人が多いのではないかと思うが、ともかく元気なうちは死ぬまで働くということになるだろう。
外国人は、日本にくると老人と言えるような人が荷物運びのポーターをしているのをみてびっくりするというが、もはや日本では高齢者が働くことに違和感はないのではないか。人間、働けなくなるまで働くということでいいのです。
労働人口が減少するという問題も、高齢者の労働参加でいくぶん緩和されるでしょう。
産業構造の転換では、野口先生は、日本は情報産業が苦手、と言っていますが、それはそのとおりだと思います。日本人はある原理から全く異なる産業を構想するということが苦手なんでしょう。たぶんそれは、自分の身の丈以上のことを考えるのが苦手なんだろうと思います。つまり、プラットフォーマー的な企業を構想するのは難しい。
しかし情報産業がここまで発展し、個人のレベルに降りてくると、日本人は逆に強みを発揮するのではないでしょうか。例えばジャパニメーションの発展を見ると、そんな気がします。
CG(コンピューターグラフィック)が現れたとき、欧米ではフルCGという方向に舵を切りました。手で描くアニメは絶滅したのです。全く新しい産業が生まれたと言ってもいいでしょう。この辺のドラスティックな転換は欧米の真骨頂でしょう。
でも日本ではフルCGは大きな波になりませんでした。しかし日本は遅れたというわけではありません。CGが安くなると、どんどん既存の人の手で描くアニメに取り入れていって、効率化が進んでいきました。こうして日本のアニメはコンピュータを取り入れながら、独特のジャンルを形成することに成功し、世界で異彩を放っています。
同じように、他の産業でも、情報産業は個人の力を上げるでしょう。いま農業の輸出が増えていますが、日本の農業は芸術品として高く売れているのです。これはグローバル化による物流の発展と、情報化のおかげです。
同じように、いろんな産業で、個人の感性が世界を相手に商売を行うでしょう。こうした小さなビジネスの積み重ねがこの先の日本を支えるのではないでしょうか。
おおきな産業を構想するのは苦手ですが、小さな身の丈のビジネスを構想するのは得意な国民なのです。こうして非常に小さい、しかし、驚くほど多様性のあるビジネスが起きるのではないでしょうか。(いまでも産業の多様性は群を抜いています)。
もう一つは野口先生の言うように、いま日本は外国で子会社をつくり稼いでそれを日本に還流するという流れになっています。それが経常黒字のもとになっています。ある意味、日本はこの方向を進めて、世界に投資するという投資立国の方向に進むような気がします。お金だけはたくさんありますからね。
わしは、財政赤字についてはあまり心配していません。財政よりも日本という国全体で破綻しなければ、問題ないと思っているのです。
★★★★☆