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最も賢い億万長者 数学者シモンズはいかにしてマーケットを解読したか

グレゴリー・ザッカーマン 訳・水谷淳 2020.9.30
読書日:2020.2.22

いま最も成功しているヘッジファンドメダリオンを創ったジム・シモンズの苦闘と成功の秘密を書いた本。

ジム・シモンズをはじめ、メダリオンに働いているのは普通のトレーダーではなくて、数学者や物理学者である。つまり、クウォンツと呼ばれるコンピュータを使ったトレードをする人たちだ。彼らはプログラムを書いて、コンピュータに自動取引をさせる。

しかし本を読んでいると、それは苦闘としか言いようのない長い試行錯誤の結果出来上がったものだ。結局のところ、コンピュータの計算パワーが十分に上がり、通信網が発達して、デジタル化した大量のデータが自由に集められるようになった21世紀になってからやっと日の目をみている。このとき、すでにジム・シモンズは60歳近くになっている。本人からしてみれば、なんとか自分の人生に富をもたらすのに間に合ったというところだろう。

著者のザッカーマンはあまり数学が得意じゃないらしいから、彼の説明で納得していいのかどうか分からないが、それを読む限りは、メダリオンは原理的にはそんなに難しいことをしているわけではないようだ。

まず膨大なデータを機械学習させて、相関のあるデータを見つける。最初は簡単な相関だったようだが、いまとなっては6次の相関という普通の人間には到底想像できないような相関をコンピュータにより見つける。そしてその相関が通常と異なる外れ値を示したとき、それがもとに戻るという仮定で取引を行う。このときの勝率は50%を少し上回る程度だという。この程度の勝率でも、莫大な富を築くことができるのだ。この異常値がなぜ起きるのかというと、結局人間の心理によるものが多いようだ。人間は機械のように冷静に取引はできないということらしい。

取引で作ったポジションを維持するのはせいぜい1、2日で、どんなに長くても1,2週間なのだという。多くの外れ値を見つけて、次々に自動的に取引しているのだ。

コンピュータが自動的にお金を稼いでくれたらどんなにいだろう、と誰もが思うだろうが、この本を呼んでいる限り、どうもそんな感じがしない。何しろ、膨大な数の相関を常に新しく発見しなくてはいけないのだ。そしていまではライバルも多いから、ライバルに負けないようにアルゴリズムの高度化が欠かせない。そういうわけで、社員たちはコンピュータの端末にかじりついてプログラムを作り続けなければいけないのだ。

もちろん、それに見合う高給は得ているのだが、そしてそれは天文学的な富なのだが、それでもこれで幸せなのかなあという気がする。コンピュータが自動でやってくれて楽ちん、というのんきな世界とはまったく違う。なんてストレスの大きい生活。

そして、人間の作るアルゴリズムだから、どうしても想定していない事態が起きて、財産を失ってしまうという悪夢からは逃れることができない。資産が暴落したときには、何が起きているのか、自分たちが間違ったのか、どこまで損をし続けるのか、その判断することはとてもとても難しいのだ。

ある原因不明の大きな損失が出たとき、シモンズはポジションを解消して、リスクを下げることを命じた。その後、取引の成績が持ち直した時エンジニアが、プログラムに任せればもっと大きな利益が出たのに、と文句を言ったが、シモンズは、次に起きた時も同じことをする、と回答したという。シモンズも心の底からはプログラムを信じていないのだ。

わしは、いくら金持ちになっても、こんなストレスの大きい生活なんてとてもできないなあ。できればほとんど取引もせず、放っておけばどんどん成長する銘柄に投資する、という方法で行きたいものだ。

本の最後の方では、CEOのボブ・マーサーの政治の話が出てきてびっくりした。トランプの大統領当選に尽力した大金持ちのマーサー家というのはこのファンドで富を作った人だったのだ。ケンブリッジ・アナリティカとスティーブ・バノンを結びつけた金持ちだ。

このおかげで、世間から目立ちたくないこのファンドが目立ってしまい、会社の前でデモが起きたりして、結局ボブ・マーサーはCEOから退くことになってしまったのだそうだ。この一家もトランプと関わりあったために、いろいろ大変だったようだ。

★★★★★

 


最も賢い億万長者 上下合本版

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