ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと

マルコム・グラッドウェル 訳・濱野大道 光文社 2020.6.30
読書日:2021.2.6

マルコム・グラッドウェルが、未知の人とのコミュニケーションがいかに困難かを述べた本。

思い込みと誤解で事態が人の命に関わる方向に容易に向かってしまうことをこの本は述べている。どちらかというと最初は好奇心は刺激され面白いが、後ろの方に行くにしたがってちょっと気分が暗くなる。

この本で中心となって取り上げているのは、2015年にアメリカのテキサスで起きたサンドラ・ブランド事件だ。ブライアン・エンシニアという警官が彼女の車を止めた。車線変更のときにウィンカーを出さなかったという理由で。ところが、サンドラ・ブランドはそのすぐ後に逮捕され、拘置所に収容され、3日後に彼女は自殺してしまう。

いったい何が起こったのか。この本はこの事件で何が起こったのかを理解するためにある。たった十分かそこらの出来事を理解するために、マルコム・グラッドウェルは膨大な資料を読み込む必要があった。

読んですぐに気がつくが、この事件は最近のブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)関連の数々の事件に酷似している。ちなみに、ツイッターハッシュタグ#BlackLivesMatterは2013年から使われているそうなので、この本はブラック・ライブズ・マター運動の進展と歩調を合わせて執筆されたわけだ。時流に乗っているいっていいだろう。

この辺の社会的に絶対に話題となるポイントを的確に掴む、グラッドウェルの能力には誰も脱帽するんじゃないだろうか。

ところが読み終わっても、いまいち釈然としないところが残る。事件を説明する理論については分かった。でも、じゃあどうしたらいいんだというところが、よくわからないからだ。

この本はこういう言葉で終わる。

「私たちは、よく知らない相手とどうやって話をすればいいかを知らない。では、その相手との関係がうまくいかないときにどうするか? そう、よく知らない相手のせいにする。」

さんざん付き合わされて、最後にこんな言葉で終わられて、わしらはどうすればいいんでしょうか。ぜんぜん希望がないですよね。

******************
グラッドウェルによる、サンドラ・ブランド事件で起こったことの説明。

(1)デフォルトで信用する(トゥルース・デフォルト理論)

ひとは他人をデフォルトで信用する傾向がある。しかも、一度信用すると、決定的な証拠があがるまでは、その人を信用し続ける傾向がある。なぜこうなっているかというと、たとえたまに騙されるとしても、協調したときの利益のほうがはるかに大きいからだ。

本の中では、人を信用するという戦略に従ったおかげで騙された人、逆に人を信用しないという戦略のおかげで騙されなかったものの、他人を信用しないため結局最後は不幸になった人の事例などが語られる。(この本の中では最も面白いところだ)。

現代のアメリカの警官は、人を信用しないという訓練ができている。カンザスシティで行われた実験がその根拠だ。治安の悪い地区で、小さな交通違反を摘発して、多くの違反切符を切ることで劇的に治安を改善できた。切符を切ることは発端に過ぎず、そこから犯罪をあぶり出すのが狙いだ。つまり、相手は犯罪者という想定で、違反者に当たるのだ。この戦略がアメリカのあちこちに拡散されて、小さな交通違反を手がかりに、相手を追い詰めることで治安が改善すると信じられている。

ブライアン・エンシニアはこの訓練を受けた現代の警官で、サンドラ・ブランドの小さな交通違反を見逃さなかった。(しかもわざと違反を誘発するような行動をしたのだ)。そして、ブランドがなにか裏で犯罪に関係しており、何かを隠しているという想定のもとに彼女に対応した。

(2)透明性

人は相手の表情や行動を見れば、相手の内面が理解できると信じる傾向がある。つまり、外面さえ見れば、内面を透明に見通すことができる、と考える。

しかし、それは特定の文化を共有している人の間でのみ可能で、外国人はもちろん、異なった文化を持っているグループの間では誤解されることが多い。例えば、若者の表情や行動から年配者は勝手に内面を想像して批判するとか。しかし、誤解している方は自分が間違っているとはまず考えない。

本の中では、奇矯な行動をするアメリカ娘がイタリアで犯罪に巻きこまれ、奇矯な行動のせいで怪しまれ逮捕される例などが語られる。(この話も結構面白い)

ブランドがエンシニアにいらいらして攻撃的な反応をしたとき、エンシニアは、彼女がなにか後ろめたいことをしているに違いないと確信した。なぜなら、彼は相手の態度からそれを見抜くように訓練されており、彼女がまさにそのように行動したからだ。そこで、タバコを吸っている彼女に車から降りるように命令し、それに抵抗した彼女を逮捕した。

(3)結びつき理論(カップリング)

カンザスシティの実験では、交通違反の取締は治安の悪い特定の地区では高い効果があった。いっぽう郊外でのパトロールは効果がなかった。つまり犯罪とその対策は場所と強力に結びついている。

ところが、この手法が全米に広まったとき、この場所への結びつきは忘れられてしまった。エンシニアがパトロールしていた場所は郊外であり、犯罪が多発しているところではなかった。つまり、エンシニアは間違ったところで間違った方法で対応していたという。これは、まあ、理解できる。

だが、結びつき理論の説明に、シルビア・プラスという詩人の自殺方法について触れているのは、さっぱり理解できない。それによると、イギリスでは10年後にはその自殺方法は不可能だったので、彼女は間違った時代に間違った場所にいた、と言う。だけど、そんなことは歴史上いくらだってあるので、だからどうしたって言いたくなる。

(4)近視理論

酔っ払ったりして思考能力がなくなると、今起こっていることにしか目がいかなくて、相手の意図は読み解くことは不可能になるという。って、これって、理論?

サンドラ・ブランド事件とどう結びつくのかよくわからないが、相手の心を読むには細心の注意が必要と言いたいらしい。

★★★★☆

 


トーキング・トゥ・ストレンジャーズ~「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと~

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ