石弘之 角川新書 2020.11.10
読書日:2021.2.2
世界的な都市化の進展とともに、コンクリートに使う砂が足りなくなり、違法な採掘はもちろん、利権争いでつぎつぎ人が殺され、環境破壊が起きている現状を報告した本。
砂戦争って、まるでファンタジー小説のような題名だけど、内容はファンタジーどころか、リアルでマジだ。砂なんてどうにでもなりそうなものだけど、実際に使える砂は少ない。例えば、砂漠にある砂はコンクリートには使えない。だから、ドバイのあの未来的なビルや人工島に使われている砂は、皆、外国から輸入されたものだという。
なぜ砂漠の砂が使えないかというと、形なんだそうだ。砂漠の砂は、丸くなっていて使えないんだそうだ。少しギザギザしていて、引っ掛かりがないと使えないらしい。つまり風と太陽で風化した砂は使えない。何より、塩分が含まれているので、鉄筋と組み合わせて使うことはできないのが難点だ。
ともかく、砂の需要が大きすぎて、無人島なんかがあったらそのまま掘り出されてなくなってしまうくらいの勢いだ。
この結果、あちこちで砂マフィアが暗躍し、違法な採掘が行われているという。もちろん環境が変わってしまい、例えば漁業が成り立たなくなることもあるので、大抵は禁止される。しかし、そんなこと無関係にどんどん採掘がされるので、地元の人やジャーナリストと対立する。そして、その人たちは次々と失踪したり、殺されたりする。
ひどいのはインドの例で、友人の目の前で殺され目撃者がいたのに、自殺として処分されたりする。開発途上国では、警察はマフィアに買収されているからだ。
砂があまりにも足りないので、日本ではコンクリートを再利用しているという。ビルを解体すると、解体したコンクリートをそのまま砂利として再利用する。あるいはプラスチックなどの有機材料を砂利として使うことも進んでいるという。
いちばんいいのは、砂漠の砂を安く加工して使えればいいと思う。わしが思うに、表層の砂は風で風化して使えないかも知れないが、地下深くの砂は使えるんじゃないだろうか。まるで石油のように、使える地層が眠っているんじゃないかという気がする。
日本の話も興味深い。日本ではいま海岸の砂がどんどん減っているんだそうだ。なぜかというと、砂の供給量が減っているからだ。砂は河川が土地を削って海に運ぶ。大昔の日本では、砂の供給があまりなく、海岸の砂浜も少なかったそうだ。ところが、新田の開拓が進み、里山の木も薪に使われるようになると、植物が減ったせいで大量の砂が発生して海岸が大きくなったのだそうだ。つまり、日本の海岸が発達したのは近世のことなのだそうだ。
いまでは山は植林されて、しかも切り倒されることなく(つまり管理もされず)多くの木があるので、昔よりも砂の供給が減ってるのだそうだ。
面白いのは、海岸が減るとすぐに温暖化で界面が上昇したからという説明がされるが、いまのところ界面の上昇の影響はほとんどないという。
こうして砂のことを話す石さん(笑)だが、なんかこの著者じたいがなかなか興味深い。この人は環境問題の専門家でもあるが、砂戦争について知ったのは、2013年のことだという。そしてその間にいろいろしらべてこの本を書いたのだが、現在80歳なのだという。
文章も非常に的確な表現で、さらにあちこちに自分の体験談を散りばめていて(国際機関で働いていたので、世界的な経験が豊富なのだ)、何歳になってもできる人っているんだなあ、と感心した。
★★★★☆