ウィル・ハント 訳・棚橋志行 亜紀書房 2020.9.4
読書日:2020.11.14
子供の頃にトンネルの中を冒険して地下世界に取り込まれた著者が、世界中で地下の冒険をして、人類における地下の意味を考察した本。
ウィル・ハント(意志狩り?)というかなりふざけたペンネームの著者は、子供の頃、家の近所にあった、今は使われていないトンネルに友達と忍び込むという経験をする。そして地下の暗闇の世界に魅せられてしまう。
後にハントはニューヨークに移り住むが、ニューヨークにも地下世界(というか地下鉄と下水道)が広がっているのに気がついて、地下世界の冒険を始める。
この地下世界に魅せられた人たちはもちろん著者以外にもいて、もちろんお互いに出会い、一緒に冒険をするようになるのである。
この本ではニューヨーク、パリの都市の地下の冒険や、オーストラリア、スペインなどの先史時代の洞窟、あるいは洞窟の中で暗闇の中で一日を過ごす経験などが語られる。
都市の地下を冒険するというのは、かなり危険なことだ。うっかりすると、自分がどこにいるかわからなくなる。電池が切れると明かりがなくなり、出口を見つけるのは絶望的になる。もちろん地下世界に入り込み、死んでしまった人はたくさんいる。
著者もパリの地下で道に迷って危うく死にかけた経験を語っている。このときは冬が近く気温が低かったので、出口から吹き込む冷気に気が付いたので方向が分かり、脱出することができたのだった。もしも暖かい季節だったら脱出できなかっただろうという。
そして感覚遮断の経験をしたときの体験も興味深い。地下の暗闇で過ごしていると、人間の脳は僅かな刺激をもとに極めてリアルな幻影を作り出してしまうのだ。著者にもまるで生き物のようなリアルな光球が現れ、幻とわかっていながら、その生き生きとしたようすに見入ってしまう経験をする。
なにかに取り憑かれたように、地下を掘り続ける人たちもいる。最初は小さな地下室を作るつもりが掘ることをやめず、だんだん地下世界が広がってついには道路が陥没してそのことが発覚した話とか。でも、かつて人はカッパドキアに地下都市を作って暮らしていたこともあるのだ。
こんなふうに、地下に関する興味深い話が多いけど、でもまあ、たぶん、わしはこのような冒険はしないでしょうね。
★★★☆☆
地下世界をめぐる冒険――闇に隠された人類史 亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ