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告発 フェイスブックを揺るがした巨大スキャンダル

ブリタニー・カイザー 染田茂+道本美穂+小谷力+小金輝彦(訳) ハーパーコリンズ・ジャパン 2019.12.20
読書日:2020.10.23

トランプの選挙キャンペーンでフェイスブックのデータを違法使用したケンブリッジ・アナリティカ(CA)の社員の回想記。

著者のブリタニーは根っからのリベラルの女性で10代からデモや人権運動に参加、果てはオバマの選挙運動にも関係して、将来もこの関係の仕事に就くことを熱望していたそうだ。

ところが大学院生で博士課程にいたとき、父親がビジネスに失敗してうつ病を発症、家族のために至急仕事が必要になった。しかし、望んでいた職に就くことに失敗。そういう状況で、ケンブリッジ・アナリティカという選挙支援を専門に行う会社に採用されたとき、彼女にはほぼ拒否できる状況ではなかった。

で、彼女は入社後ケンブリッジ・アナリティカの手法に驚くことになる。

ブリタニーはオバマの大統領選で、もっとも単純なSNSを使う選挙戦を経験していた。つまりSNSを使って献金を募り、投票を呼びかける、というものだ。しかし、その方法ではブリタニーたちがアクセスできるのは、最初からオバマを支持者している人だけなのだ。

ところが、ケンブリッジ・アナリティカは有権者のデータをさらに細かく分類し、カテゴリーごとに異なった働きかけをする。効率がいいのは、どちらに投票しようか迷っている人で、このカテゴリーにもっとも強く働きかけるのだ。面白いのは、敵候補の支持者に対しても働きかけることで、たとえば、あなたが投票しなくても十分勝てる、という思い込みを醸成し、投票に行かないように仕向けたりする。

こうしてうまくいけば、有権者の数%をクライアントのほうに動かすことができる。激戦の選挙ではこの数%がものをいうのだ。どうやらブリグジットの国民投票やトランプの大統領選にケンブリッジ・アナリティカが大きな影響を与えたことは間違いないようだ。

このような選挙戦を行うには、当然、有権者の細かいデータが不可欠で、そのような個人データをケンブリッジ・アナリティカがどのように集めたかが問題になる。で、もちろんフェイスブックの裏の仕組みを使って違法に収集したわけだ。

これに対してフェイスブックはまったく腑抜けた対応しかしておらず、データの消去を求めただけだった。そしてケンブリッジ・アナリティカ側が消去したと回答すると、それ以上調べようとはしなかった。たぶん、フェイスブックとしては、法律的に対応できればそれでよかったのだろう。

さて、ブリタニー自身はどうも会社の本当の中枢に達すことはできなかったみたいで、データサイエンティストがデータは消去した言えば、その言葉を信じるしかない立場だったようだ。本人も、この辺は危ういと思っていたようだが、何しろ彼女にはお金が必要だったので、その辺は突っ込まなかったということらしい。

ブリタニーにとってはそんなことよりも、根っからのリベラルなのに、大嫌いなトランプの選挙運動を手伝うことになり、しかもトランプが勝つとは思っていなかったのに、勝ってしまったことが、大きなトラウマになってしまったようだ。なにしろ彼女はヒラリーが勝つと信じて、祝賀パーティのチケットまで買っていたんだから。

おかげでブリタニーは昔からのリベラルの友達をほとんど失う羽目になる。しかも会社からはなんの恩恵も受けられず、どうやら自分がいいように使われていたことに気が付く。そういうわけで次第に会社と距離を置くようになり、ブロックチェーン関係の業界に身を移すことになる。

そしてケンブリッジ・アナリティカの経験を生かし、オウン・ユア・データ(自分のデータを所有せよ)という非営利団体を設立している。これは個人データは巨大IT企業にただで売り渡さずに、自分で管理することを訴える団体だ。

この本は、個人データをただで売り渡してはいけない、というような決意で終わるようになっている。

わしは、便利にしていただけるのなら、わしの個人データをいくら使ってもらってもかまわないと思っている。もちろん個人を特定できないメタデータとして使うならば、という条件でだが。そして、グーグルなどが個人データを使ってあまりにももうけすぎている、という非難に対して、ユーザに対価を支払うということになれば、喜んでそれを受け取ります(笑)。

それにしても、わしにとっては、根っからのリベラルの人ってこういう人なんだと、ブリトニーの考え方や経歴自体が興味深かったです。

★★★☆☆


告発 フェイスブックを揺るがした巨大スキャンダル (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

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