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スノーデン独白 消せない記録

エドワード・スノーデン 川出書房 2019.11.20
読書日:2020.10.5

米国の諜報機関NSAがインターネットの全データを傍受していることを内部告発し、ロシアに亡命したスノーデンの自伝。

でも、あの事件を赤裸々に語ってくれているかというとそういうわけではなく、ちょっとフワフワしてもどかしいところもある。

しかし、知らなかったが、スノーデンがあの事件を起こした時、29歳だったのだ。ものすごく若い。しかし、国家にたてつく気概を持てるのにはぎりぎりの年齢だったかもしれない。守るものが増えていけば(端的に家庭のことだが)、とてもこういうふうにはいかなかっただろう。

ただ自分の生まれから、NSAで仕事をするようになったいきさつや、それを暴露しようと思いや経過については詳しく、その辺がとても面白い。

何しろ、子供の時からワシントンDCの郊外で暮らしていて、親戚一同、軍や政府関係ばかりで、中学の時に好きな女の子は全員父親がFBIだったというのだから、がちがちの国家公務員的な雰囲気で育ったわけだ。

ところが、本人はそんな状況にものともせずに、なんともアナーキーな育ち方をする。

子供時代がインターネットの黎明期だったのだ。

父親も海軍関係の技術畑だったせいで、父親がコンピュータを買うと、それを占領してしまう。電話回線も占領したので、家族は電話ができず、父親はスノーデン以外の家族のためにもうひとつ電話回線を引かなくてはいけなかった。(ここでは述べられていないが、アメリカでは電話代金が固定の24時間の常時接続の契約が可能だったのだ。常時接続じゃなくて従量制だと、こんなことやってられませんて)。

インターネットでは誰もが匿名かつ平等だったので、質問すれば誰かが教えてくれた。あちこちのオフ会に誘われたが、参加できない理由にしぶしぶ年齢を12歳と明かしたが、大人たちはまったく気にせずに、その後もいろんなものをただでくれたりしたという。

このころ両親が離婚したこともあり、アナーキーぶりに拍車がかかり、ほとんどすべての時間をインターネットで過ごし、当然学校では授業は無視。ぎりぎりの単位でやり過ごそうとしたが、病気にかかり一気に留年の危機となる。だが、裏の規定を使って地元のコミュニティ大学入学にまんまと成功する。留年どころか飛び級をしてしまったわけだ。

高校時代はさえなかったが、大学では日本語の講座をとって(日本のアニメが好きだったのだ)、そこで同じようなアニメ好きやゲーム好きの連中とつるむようになる。

そのうちのひとりの25歳の年上の女性に恋をして、彼女がやっているWEB構築会社で働いているときに、9.11に遭遇する。このとき、会社はフォートミードというNSAの施設の居住区で勝手にやってたので、NSAの混乱ぶりを目にすることになる。すべての政府施設は自爆テロの対象になる可能性があったので、みんなが慌てて逃げ出したのだ。

ここで、人生なにをすべきかを考え、なんと陸軍に入隊してしまう。母親が嘆き悲しむのをよそに、訓練にいそしんだが、訓練中、両足を骨折し、除隊。

もう一度、自分がすべきことを考え、得意なコンピュータで国家に貢献することを考える。情報機関に勤めることにして、そのため身元が確かなことを確認するクリアランスを受ける。それにはなんと1年くらいかかるんだそうだ。その間、大学に戻り、恋人となるリンジーとマッチングサイトで出会ってたりする。

こうしてクリアランスに合格したが、クリアランスとIT技術の両方を持っている人間には就職はよりどりみどりのだったそうで(マイクロソフトの資格を持っていた)、22歳でCIAに就職する。

CIAでは、シスアドの夜勤のしごとだったが、ここで面白い男と出会う。夜勤の間に、世界中からいろんな問い合わせが来るのだが、その男は対策としてリブートを指示するのみで、それで直らなかったら昼のシフトに全部回すような、最低の仕事しかしないやつだったという。そして空いている時間(つまりほとんどの時間)は、ミステリーなどを読みふけっているんだそうだ。

ところがこの男はある時間になると、急いで建物の奥に行くという。そこで年代物の磁気テープバックアップ装置に新しいテープを仕掛けると、慎重にキーボードを打つ。モニタが壊れていたので、間違えないようにしなくてはいけなかったのだ。そうやって、やっとメモリのバックアップが無事に開始されるという。

なんとこの機械はこの男しか扱えなかったので、CIAは彼を首にできなかったのだ。

このままではこの男のようになると考えて、スノーデンはステップアップのために、外国のCIA技術職に応募する。外国に行くために正式な訓練を受けることになったが、その訓練は大使館でともかく全ての電子機器を自力で直すような訓練だったらしい。(業者に頼むと、たちまち盗聴器が仕掛けられるから、自分で直さなくてはいけないのだ)。また大使館を退去するときに、全ての情報を消去する訓練とかをしたらしい。

訓練中、泊まっていたホテルの部屋があまりにひどいので、訓練生代表でCIAの上の方と、正規ルートを無視して交渉したりしている。おかげで待遇は改善されたが、規律を重んじるCIAの上層部から規律を守れとこんこんと諭されたりしている。やっぱりそういうところがあるのだ。

訓練後の最初の仕事はジュネーブの大使館だった。ここでの仕事はあまり性に合わなかったようだ。

次に2009年に東京に来て、NSAの仕事を手伝うようになる。東京のNSAは横田基地の建物の半分を占めているんだそうだ。最初はCIAとNSAのシステムをつなげる仕事をしていたが、NSAのあちこちに散らばっている情報を最小限の通信量でバックアップを行うシステムを開発する仕事をするようになる。

さらに中国がどのようにさまざまな情報を集めているかを評価する仕事に関わるようになり、そのデータを読んでいるうちに、アメリカが同じことをやっていないはずがないことに気が付く。きっかけは中国だったというのが面白い。

やがて、NSAがどんなふうに情報を集めているのかを、ひそかに調べるようになる。そして、NSAが合衆国国民のほぼすべての情報を集めていることに愕然とする。電話、メール、SNS、インターネットの情報のすべてにアクセスが可能だったのだ。

中国で行われていることと同じことが、国民の了解なしで行われているわけだ。ところで、アメリカでは私有地にいる人間の情報を裁判所の許可なしに集めることは禁止されている。だからNSAも個人情報を集めることがまずいことは理解していて、そこでNSAが自分に言い聞かせるために作った理屈が面白い。

その説明によると、NSAは情報を集めているがその中身は検索しないというのだ。何か調べる必要があったときに初めて検索をかけて、ある個人が何かをやった事実を知るという。つまりただ集めているだけの段階では、個人が何をやったかは実際には知らないのだから、個人情報を集めているとは言えない、という理屈なのだ。

これは明らかに詭弁だが、アメリカ人は何かやるときにもこうやって理屈を作って自分を納得させてことを行うというのが面白い。アメリカ人は自分が正しいと信じられないと、やっていくことができな国民なのかもしれない。(いや、どこの国民でもそうでしょうが)。

しかし、この辺のプライバシーについて話すスノーデンは、ちょっとナイーブすぎるという気がするのは、わしだけだろうか。

2009年に東京に来て、2011年にアメリカに帰るのだが、その時にアメリカで、ネットに繋がる冷蔵庫を見て気分が悪くなったという。冷蔵庫がせっせと個人情報を送って、いることに耐えられなかったのだ。

しかし、個人情報が駄々漏れの世界が来ることはインターネットの住人にはとっくに理解されていたはずだ。わしは1999年に「The Transparent Society」という本を読んだが(実際には最初の方だけ読んで飽きて読むのをやめたんだが)、そこには未来には個人情報は完全に透明となると書いてあった。しかもその本には、その方がいいのだ、とさえ書いてあった。

そういうわけで、わしすらそういう社会になることは理解していたのに、インターネットにどっぷりのスノーデンが2010年ごろになって、やっとこの問題で悩むというのは、どうもほんとうかなという気がした。

わしは個人情報とその扱いについては、きっと判例が積み重なる中で、何らかの妥協が生じて、国家、社会と個人の間で折り合いがつくだろうと思って、あまり心配していない。

さて、2013年についにNSAのやっていることを香港で暴露したスノーデンは、結局、当初の予定になかったロシアに留まることになった。スノーデンのおかげで大迷惑を被ったはずの恋人リンジーがモスクワにやって来て、二人が2年前(2017年)に結婚したと読んで、良かったと思った。スノーデン夫婦はモスクワでそれなりに落ち着いた暮らしをしているようだ。

最後に、スノーデンのCIAやNSAでの雇われ方が面白かったので、それについて述べたい。

かつては情報機関も公務員として、本人も家族も国家が一生面倒を見てくれる、という働き方だった。ところが、9.11後、情報機関に直接雇われるのではなく、民間企業に所属して、そこから派遣されているという働き方になったらしいのだ。これは公務員の上限に枠がはめられ、それを回避するためのものだったらしい。なので、仕事はCIAやNSAのために働いて、仕事内容も変わっていないのに、スノーデンの所属する企業が転々と変わるという変なことになった。(おかげでスノーデン事件が起きた時、スノーデンはひとつのところに長くいられず、数年で転職してばかりいたダメ人間、などという話がリークされた)。

いちおう民間企業に所属していることになっているので、民間企業の上司と面接するのだが(だいたいそのとき初めて会うのだという)、最初3万ドルだった年収を6万ドルに上げてくれとふっかけたとき、なんと相手はそれ以上の6万2千ドルにしようという。なぜかというと、民間企業はその給料の一定割合が収入になるので、なるべく給料をあげたほうが利益になるのだ。そういうわけで、毎年のように給料はあがったらしい。最後は年収12万ドルだったそうで、29歳でこれは、なかなかの成功といえるんじゃないでしょうか。

というわけで、菅総理、デジタル庁作ってっも、若い技術者にはこのくらい給料払わないと難しいみたいですよ。

★★★★★

 


スノーデン 独白 消せない記録

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