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LOONSHOT<ルーンショット> クレージーを最高のイノベーションにする

サフィ・バーコール 訳・三木俊哉 解説・米倉誠一郎 日経BP 2020.1.27
読書日:2020.9.3

一見ばかげたアイディアであるルーンショットは少数の自由なアーティストから生まれるが、それを実用化、製品化するのは規律のある大多数のソルジャーたちによってなされる。まったく別な性質をもつアーティストとソルジャーを独立に運営しつつ、お互いに交流させることでイノベーションを達成できると主張する本。

新しい技術でイノベーションを起こすことは、企業の夢でもあり、技術者の夢でもある。しかしそれはなかなか起こらない。

例えば、企業や政府の組織の研究所で驚くべきアイディアが出たとしても、それがその組織でうまく製品化されて、組織が生き残ることは非常に難しい。新しいアイディアを製品化できず、イノベーションのジレンマ(現在の技術にこだわっているうちに、次の技術への移行に失敗すること)に陥り、生き残れないことがほとんどである。

ところが、そういうことを行っている組織も存在する。わしが本当にすごいと思う技術開発集団は、アメリカのDARPA(国防高等研究計画局)である。DARPAの開発したものとしては、GPS、インターネット、ドローンなどがある。

米軍はどう見てもすでに世界最強の軍隊なので、とくにイノベーションの努力をしなくてもいいように思える。しかし、その立場に甘えることなく、貪欲にパラダイムシフトと言える技術を開発している。どのようにそれを達成しているのだろうか。

著者によると、そもそもブレークスルーとなるアイディアは片隅の辺境のグループから生まれる。彼らは基本的に独創性を重んじるアーティストである。一方、それ以外の大部分の人は、ある評価が定まった規律ある価値観の組織に属している。軍隊になぞらえて彼らをソルジャーと著者のバーコールは呼んでいる。そしてアーティストの突拍子もないルーンショットは、ソルジャーの規律を乱すために嫌われ、受け入れられることはない。

ここまではよくある話である。ではどのようにイノベーションをコントロールすればいいのだろうか。

まずアーティストのクループはソルジャーからつぶされないように隔離しなくてはいけない。そうでないとこのグループは殺されてしまう。しかし、ソルジャーと交流が絶えてしまうと、ルーンショットは実用化されない。だから、お互いの組織が交流をするように仕向けないといけない。この技術の橋渡しを専門に行う人を任命するなどの仕組みを作る必要がある。

この辺は、化学の相転移を用いてうまく説明している。アーティストは自由に動き回る水で、ソルジャーはきっちり並んだ氷で、交流を促す人は水でも氷でもない0℃の境界線にいる、というふうに。

実用化が始まってもすぐにそのアイディアが成功することはあり得ない。少なくとも3回は失敗するという。ルーンショットが本物ならそれは偽の失敗である。偽の失敗なら、失敗してもアーティストのグループを守る必要がある。

しかし、どうやったら偽の失敗かどうかが分かるのだろうか。

これは結局、アイディア自体に問題があるのか、テスト方法が間違ったのか、などを仮説を作って検証する以外にないようだ。

そして実際に市場に導入した時には、その結果を組織の意思決定のレベルでチェックする必要があるという。それは失敗したときだけでなく、成功したときも行う。成功したからといっても、良い意思決定だったとは限らないし(運がよかっただけ)、失敗しても悪い意思決定だとは限らない(読みは間違っていなかった)。

ルーンショットのチームの運営には気を付けなくてはいけないことも多いようだ。例えば人数は大きすぎると政治的な要素が入ってしまうので限界の人数があるという。その人数は、不思議なことに全員の顔を覚えられる人数といわれる150人だそうだ。実際に方程式を作って人数を確認しても150人になるという。

では、実際にDARPAではどのように運営しているのか見てみよう。この本はDARPAについてだけ述べた本ではないが、やっぱりDARPAが参考になる。

DARPAでは、軍事予算の一定割合が予算に割り当てられる。そして毎年、研究テーマが募集される。研究テーマには、冒険的なパラダイムシフトを起こすようなテーマが多く選定される。応募するのは、主にその分野の技術に明るい人で、大学の研究者が多いようだが、軍事部門からも応募がある。テーマが決まると、応募した人はプロジェクトマネージャーとして研究を引っ張る。プロジェクトマネージャーは予算を使って実際に研究する人を雇い、チームを作り研究を進める。プロジェクトマネージャーにはそのテーマに関して絶大な権限が与えられる。

こうして、研究部門のアーティストはソルジャーから完全に分離されている。プロジェクトマネージャーは、アーティストの研究チームと軍の橋渡しとなって交流を促す。

プロジェクトチームは多くは数年で解散する。そしてプロジェクトマネージャーは職を失う。軍に移ることはできない。しかし、プロジェクトマネージャーはその分野の業界に大きな存在感を示すことができるので、その後のキャリアに非常に有効なのだ。

こうして、DARPAは挑戦的なテーマを外部に委託しながら、その成果を軍に反映させることができる。しかも、研究チームは一時的で解散するから、軍自体に脅威を及ぼすこともなく、ソルジャーの組織を守ることもできるわけだ。

日本では、国が主導するプロジェクトは経産省が行うものや文科省が行うものがあるが、どうも成果が出ているとは言い難い状況である。

しかし、なんとかDARPAなどを参考にして、成果が出る方法を身に付けられないだろうか。

わしは企業は新しいアイディアを実用化できなくても、潰れれるだけだからあんまり気にしなくても良いように思う。個人投資家としては、新しい元気な企業が次々出てきた方がチャンスがあるから、こちらの方がいい。しかし、国が主導するような大きなテーマに関しては、もっと何とかしてほしいと思う。

我が国から大きなブレークスルーがなくなってからずいぶん経っているような気がするのは、わしだけではないだろう。

★★★★★

 


LOONSHOTS<ルーンショット> クレイジーを最高のイノベーションにする

 

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