岩井勇気 新潮社 2019.9.25
読書日:2020.7.8
(ネタバレあり。注意)
芸人、ハライチのボケ担当の岩井勇気が、なにしろ事件が起きないので、日常に起こる些細なことを針小棒大に語るエッセイ。
事件が起きないというのは、バラエティ番組で、昔の苦労話をせがまれることをいうのだという。普通、芸人はなかなか売れず下積み生活が続いてアルバイトに精を出したとか、女の子に食わせてもらったとか、そういう話があるはずだという思い込みがあり、そういう話を求められるのだそうだ。
ところがハライチの場合は、デビューしたあとすぐにテレビに出るようになり、順調に売れ続け、そういう下積みがないのだという。なので、こういう質問にはたいへん困るんだそうだ。
もちろん日常もいたって普通なんだそうだが、なにしろそれなりに成功している才能ある芸人なので、日常生活の中にネタを探し出して文章にするのは、そんなに難しくなかったようだ。本人も言うように器用なんだろう。ものすごく読みやすくて、あっという間に読んでしまった。会社からの帰りの電車でほとんど読み終わってしまい、残念だったほど。
そもそも他の人が気になるようなところが本人は気にならない性質みたいで、ある意味鈍感だから、事件が起きないと思うのかもしれない。住んでいるアパートが、墓地の隣なのに、全く気にならない。そもそも幽霊とかの超常現象は信じない。そして、実際になにも起こらない。
しかも人付き合いもあんまりいいほうじゃないらしい。人間関係も無理などしないので、いたってマイペースである。
しかもどうでもいいことにハマる。人に説明することが困難なことにハマる。
こんな感じだから、いまいち地味である。なので、ハライチの相棒、澤部との存在感を比べたら、圧倒的に存在感がない。なので、タクシーに乗っても気付かれない。さらに運転手にハライチの澤部を乗せたことがあると言われ、澤部の態度が悪かったという話を長々と聞かされたりする。
人間関係にあまり思い入れがないので、同窓会に出たいとも思わない。誕生日パーティに誘われて、うんざりするが、あえて受けて立って、自分で描いたどうでもいいような絵をプレゼントして相手をドン引きさせたりする。
いや、なかなか興味深いので、ぜひこの調子でエッセイを書き続けて、たまには創作童話とかそういういやらしい本を出して、楽しませていただきたいなあ、と思う次第です。
ところで、ハライチのコンビとしての活動は、わしは知らないです。ネタも見たことない。ついつい本の題名につられて読んだのですが、なかなか面白かったです。
★★★☆☆