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世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」

山口周 光文社新書 2017.7.20
読書日:2020.3.5

山口氏の本、「ニュータイプの時代」に続いて2冊目。順番としては、こちらのほうが先に出版された。そしてたぶんこの本で山口さんはメジャーになった。

基本的な前提は、前回読んだ「ニュータイプの時代」と同じで、いまの時代はMBA仕込みの正解(サイエンス)があふれているが、すでにそれでは差別化にならず、差別化のためにはアートが必要なので、美意識を鍛えなければいけないという話。

経営にサイエンスを持ち込んだのは、氏によるとマッキンゼーらしい。それ以前は、その業界の経験者がコンサルタントをしていた。マッキンゼーはそのような人たちに対抗するために数値(サイエンス)を持ち込むという戦略を考えた。この手法は覚えさせれば誰にでもできるので、人を大量に雇えば簡単に業容を拡大できることが利点だった。また、数字を使うからアカウンタビリティが高く、経営者への経営戦略採用の説得が容易だったことだ。

だが、この方法は真似が容易なので、いまではすっかりコモディティ化してしまったという。最近では、マッキンゼーさえもデザイン会社を買収して、アートの部分を強化しているのだそうだ。

もうひとつ、美意識を鍛える理由としては、社会の変化が急激すぎるので、社会的にルール化される前に判断を迫られる事態になることが多いからだ。何か自分なりの基準を持ち合わせていないと、あとあと非難を浴びるような判断をしてしまうことにある、という。この良い例としてはグーグルの「Don’t be evil」があり、悪い例としてはDeNAコンプガチャの例が紹介されている。美意識とモラルは大局的に非常に効率がいい、という大西輝政のことばを紹介している。

また、心理学の知見として、ソマティック・マーカー仮説が紹介されている。知性(サイエンス)だけでは意思決定ができず、情動を持っていないと決断ができないという仮説だ。いわゆる分析はできるが決断ができないという状況にあたる。つまり最後に決断を下すのはやはり人間の情動なのだ。ならば、良い情動を持たなくてはいけない。

さて、この本の主張をどうとらえるべきだろうか。山口さんの言っていることは分かるし、自分の美意識を磨くことも可能だろう。だが、それを経営に活かすとなると、大変困難という感じがした。結局、経営者のリーダーシップという問題に帰結してしまう。しかしリーダーシップはそれ自体めったに見られない貴重品だ。このままではリーダーになった人が偶然にも美意識を兼ね備えた人である幸運を祈ることしかできないような気がする。

★★★★☆

 


世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~ (光文社新書)

 

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