フィル・ナイト 東洋経済新報社 2017年10月27日
読書日:2019年2月20日
ナイキの創業者、フィル・ナイトの自伝。創業当時から株式公開まで、約20年間ぐらいの物語。
わしはまったく靴に興味がないので、本の中に次々に出てくる、靴に取りつかれた人たちが、ちょっと信じられない。でもまあ、しょうがない。人間なんて、何かに恋に落ちるようにできているんだろうから。
靴に取りつかれた人のことをShoe Dogというんだそうだ。そういうわけで、フィル・ナイトが信じるのは、そういうShoe Dogの人たちだ。どこに行っても、フィル・ナイトはその男がShoe Dogかどうかを見抜き、(それはきっとちょっと話せばすぐにわかるのだろう)、その男たちを信頼してすぐに契約する。最初からずっとそうなのだ。
びっくりしたのは、株式公開まで、ずっとナイキがキャッシュ不足に悩まされ、倒産の危機と隣り合わせだったことだ。成長が早すぎて、キャッシュが追い付かないのだ。もっと成長をコントロールすることもできただろうに、フィル・ナイトは昼飯代も払えないほどのキャッシュ不足に悩まされながら、本当に最後の1ドルまで事業につぎ込む。いやちょっとどうかしてる。
こうしたぎりぎりの綱渡りが、フィル・ナイトの冒険なのであって、株式公開を十分な資金を得て、安定して成長できるようになったあとは、もう冒険とは言えなくなってしまったのだろう。そこで物語が終わるのは納得できる。
ずっと少ない予算(創業時は週25ドル)で家庭を切り盛りしてきた妻のペニーが、大金持ちになったらどう使っていいかわからず、トイレットペーパーをたくさん買いためたというのは笑える。(それじゃあ、使いきれませんねえ)
最後の方で、多くの人が亡くなっていくことが綴られるが、ことさら胸が痛むのは、息子のマシューが亡くなった話だ。ずっと反抗的で、自分の道を歩みだしたところで亡くなるのだ。一方、スーパースターのアスリート、プリが交通事故で亡くなったことの衝撃が語られるが、そっちはピンと来ない。
ナイキの創業メンバーは一癖も二癖もあるものばかりで、バランスが取れている人物がまったくいないのがすごい。普段の会社での服装もむちゃくちゃ。彼らも株式公開で金持ちになったが、それ以前はずっと安い給料で文句も言わずに働いていたらしい。つまりお金はまったく大した問題ではなかったらしい。
中でも、社員第1号のジョンソンは強烈。ひっきりなしにナイトへ手紙を送っていた初期のベンチャーの頃から、引退後にニューハンプシャーの荒野で暮らすなど、他の誰とも一線を画した変人で、興味深い。
読み始めると、あまりに面白いので、あっという間に読み切ってしまう。お勧め。
★★★★★