ジョージ フリードマン, George Friedman 早川書房 2009年10月9日
読書日:2010年04月20日
アメリカに追い詰められた日本は奇襲作戦でアメリカに戦争を仕掛ける…。これは20世紀の太平洋戦争の話でなく、21世紀の話だ。予想するのは地政学の知識を駆使して世界情勢分析を行うストラトフォーという会社のCEO。ストラトフォーという会社は国際紛争が起こるたびに名前が出てくるこの分野では有名な民間会社である。今の時点では荒唐無稽に思えるが、困ったことに説得力がかなりあるのである。
地政学とは、地理的条件と政治・軍事戦略を同時に考慮する学問分野で、ある国がおかれている地政学的条件は時代が変わってもほとんど変わらない、また為政者が取りえる手段もほとんど変わらない、という仮定の下に、分析を進める。
最初に主要な国の地政学的な条件が述べられるが、そこで明らかにされるのは、アメリカの圧倒的な有利さである。事実上最強であり、一時的な攻撃はできても、占領はほぼ不可能である。(たぶん、過去のローマ帝国と比べても圧倒的)。このことから今後数百年という単位で世界最強であり、アメリカの世紀が続くという。アメリカの世界戦略としては、自国が占領されることは考えなくて良く、ただただ他の有力な国が台頭することを警戒しさえすればよい、という。アメリカは勝つ必要はなく、ただ分断できればそれでよいので、いまのイラク戦争でも、強力で敵対的なイスラム国家の台頭を防いでいるから、これで十分なのだそうだ。
一方日本は、地政学的に不利であり、しかもアメリカに追い詰められやすい。日本は海外に進出していかざるを得ず、アメリカとぶつかるという。
意外なのは中国の地政学的な不安定さだ。中国は大きな島国であり(つまり北も西も南も地理的に閉ざされている)、沿岸部と内陸部で容易に分裂しやすく、基本的に不安定なのである。わしは中国という国が、歴史的に侵略戦争をほとんど行ったことがないというのが不思議だったが、中国の外に出て行く努力に対するメリットがあまりに少ないということで、納得の分析だ。内部に不安定さを抱えている中国は、アメリカが同盟を結ぶには日本よりも有利である。
ロシアは地政学的にやはり不利であり、地政学的に安定な状態にまで拡大しようとして、自壊してしまうという。
この本では21世紀中頃に、日本とトルコとポーランドが台頭すると予想する。この場合、台頭するというのは、地理的拡大を試みるということだ。日本は中国と日本海とロシア沿岸部に進出するという。トルコはオスマン帝国の領土を回復するという。この結果、アメリカと対立、追い詰められて戦争が起こるという。結果は圧倒的に日本の敗北である。
予想通りに戦争が起こるかどうかは分からないが、日本の地政学的な不利さはやはり否めない。この不利さをなんらかの手段で挽回しないと日本の将来が難しいのは確かである。もちろん、アメリカを刺激するような愚作は止めた方がよい。この本が述べていることを、夢々、荒唐無稽な話と切り捨ててしまうべきではない。
★★★★★