エドワード・ルトワック 芙蓉書房出版 2013年7月24日
読書日:2013年11月01日
中国が歴史的に多国間の制度に不慣れな国家であり、経済の発展が他国に警戒心を起こさせ対中国の同盟を進めるため、中国が覇権を得ることはないと主張する本。
内容にはおおむね納得できる。ともかく中国は巨大で強力な国家で、とても無視できない隣人であるから、覇権を握られても困るし、自滅の結果大混乱が起こることも困る。なんとかうまくつき合って生きたいものである。
地理的には中国は巨大な島国のようであり、つまり海と砂漠と草原とジャングルに囲まれた豊かな孤立した1個の島と考えたほうがぴったりする。この豊かな島から外に出るのはまったく非合理的で、したがって中国は外から攻められることはあっても外に富を求めて侵略戦争を行うことはこれまでなかった。(多少領土を拡張はさせることはあるが)。こういう主張はニクソンなどの地政学な発想をするひとがよくする。
と、ここまでの地理的特徴については、私も理解していたが、ルトワックはこれが生み出した文化的特徴に目を向ける。つまり、朝貢という制度を編み出し、周辺の蛮族と1対1の関係を結び、そして彼らが対中国の同盟を結ばないことを重視する外交政策である。強力な蛮族がいた場合には、最初は下手に出て、そのうちに中国のソフトパワーで取り込んでしまい、無害化する。このような中国の歴史的から、中国は小さな国でも相手を尊重する現在の多国間交渉の文化に非常に不慣れだと著者は言う。その結果、中国の外交はアフリカの小国などの他にはうまく行っていないという。
もうひとつルトワックが主張するのは地政学ならぬ地経学という発想で、経済的に勃興した大国に対して周辺国が同盟して対抗しようとする動きであり、かつてのドイツでそれが起こったように中国でも起こると言う。すでにオーストラリアや日本、およびアセアンの国にそれが起こっているという。(例外は韓国で、見事に昔の朝貢外交に戻っているという)。
地経学的な対抗手段でどのくらい中国の成長を食い止められるのかは不明だが、中国は内政にも問題を抱えているようでもあり、もしかしたら共産党政権があっさり崩壊してしまうかも知れない。なんとか中国には軍事的な野心を持たず、国家崩壊も起こさず、そこそこ成長して豊かになってもらい、穏やかに世界に存在していてほしいなあ、と私は思うのである。いや、本当に。
★★★★☆