ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

ビーバー 世界を救う可愛すぎる生物

ベン・ゴールドファーブ 訳・木高恵子 草思社 2022.2.2
読書日:2022.4.7

かつて北米やヨーロッパに多数存在して水の保水や湿原の形成に貢献していたビーバーを復活させて自然環境を回復させようとする、ビーバー狂の人たちの熱意と奮闘を描いた本。

わしはアメリカにはビーバーがあふれているのだとずっと思っていた。なにしろ子供の本にも出てくるし、野生動物系のノンフィクション番組ではビーバーを何度も見たことがあるから。

ところが、アメリカではビーバーは絶滅寸前だったということを初めて知った。

というか、アメリカの歴史上最初の輸出品、このころはもちろんイギリスの植民地だったのだが、それがビーバーの毛皮だったということも初めて知った。このときの貿易会社がハドソン湾会社で、五大湖をつなぐ交易航路も、毛皮の取引のために開かれたようなものだったらしい。

このころ、アメリカの川という川にビーバーが大量に暮らしていたが、ビーバーを捕る猟師たちがビーバーを求めて遠くへ遠くへ旅をして、ついにはシアトルやサンフランシスコなどの太平洋側まで達したという。こうした毛皮ハンターの様子は、ディカプリオ主演の映画「レヴェナント:蘇りし者」で描かれているという。(わしは未見)。

こうした毛皮ハンターはビーバーを捕り尽くし、ビーバーがいた湿地帯は肥沃な大地に変わり、農業が行われた。こうなるとビーバーは害獣扱いとなり、見つかると直ちに駆除される存在になった。また牛の放牧が行われると、牛が草だけでなく木も食べ尽くしてしまうため、ビーバーの必要な木(食料にもダムの原料にもなる)が育たなくなり、ビーバーがいなくなってしまう。同じことはオオカミを駆除した結果、アカシカが増えたときにも起こり、シカが木を食べ尽くした結果、ビーバーが激減することになった。ビーバーは結局、有蹄類(ウシ、シカなど)と相性が悪いのである。

この結果、何が起こったかというと、川は氾濫しなくなってせき止められず、勢いのある流れが大地をけずり河岸ができた。するとますます氾濫しなくなり、水はすぐに海に行ってしまい、草が生えない乾燥した大地が広がった。そして地下水が補充されにくくなり水位がさがり深くなり、木の根も水に届かず枯れてしまった。また土砂が堆積せずに土地は痩せていった。

最近、増えすぎたシカを減らすために、ロッキー山脈にオオカミが再導入されて、シカの数がコントロールされるようになった。同じように、ビーバーも再導入する試みが行われており、湿地帯が蘇るなどの大きな効果が得られているところもある。

ビーバーを再導入すると発生する問題は、ビーバーが作ったダムにより水が氾濫して、道路や線路が冠水してしまい使えなくなってしまうことだ。こうなると、ビーバーを嫌いでない人でもビーバーを駆除しなくてはいけなくなる。これを避けるために、最近はフローデバイスという技術が発達していて、水がたまりすぎると逃がすような装置を設けることで、道路などへの氾濫を避けられるようになっているらしい。

ビーバーはせっせとダムを補修するが、ビーバーは頭があまり良くないらしく、ダムから離れたところに水の取水口を設けると、そこの入り口を塞ごうとはあまりしないらしい。取水口はケージに囲まれてビーバーが入れないようにして、取水した水はパイプで下流に流される。フローデバイスは1、2年に1回ぐらい取水口の掃除をするだけで、低コストで問題を解決できるという。

ビーバーはまだ害獣という印象が強いので、再導入の際に住民から反対運動が起こることが多いという。反対者の多くが川で釣りをする人だという。ビーバーが魚を獲ってしまい、マスなどの魚がいなくなってしまうというと考えるからだ。これはビーバーが草食であることを知らないからで、ビーバーはヤナギなどの木を食べるのだそうだ。(肉食のカワウソと一緒にされているらしい)。それどころか、ビーバーのダムは稚魚の保育所になって、魚を育てるので釣り人の味方なのだ。もちろん、ビーバーがダムを作ると、周辺の植生が蘇り、昆虫や鳥も増えるという。

ヨーロッパでもビーバーを再配置する運動が広がっているという。なお、ヨーロッパのビーバーとアメリカのビーバーは種類が違っていて、子供はできず、交雑の心配はないそうだ。イギリスはアメリカと同じように、ビーバーが絶滅してしまっていて(アングロサクソンは徹底的に自然から搾り取る体質らしい)、北欧やバルト三国あたりからビーバーを連れてきているらしい。

まあ、そういうわけで、ビーバーに惚れ込んだ著者のビーバー狂たちの話ですが、わしも個人的に北米の乾燥化、地下水の枯渇に多少とも心を痛めている身ですので、ビーバーでもなんでも導入して、環境を改善してほしいものですねえ。ビーバーには興味はありますが、とくに好きな動物でもないので、著者のビーバー熱にはちょっと苦笑です。

ところでビーバーはかつて世界中にいたらしいのだが、日本にもいたのかしらね。聞いたことないなあ。

(2022.4.10 追記)
気になったので、ディカプリオの「レヴェナント:蘇りし者」をアマゾン・プライム・ビデオで観てみた。まあ、確かにインディアンの襲撃を恐れながらビーバーの皮を捕る毛皮ハンターたちの様子が描かれています。お話は基本的には息子を殺されたグラス(=ディカプリオ)という男が、クマに襲われ怪我をして何度も死にかけながらも復讐をする話なんだけど、見どころは大自然のなかで手負いの主人公がサバイバルするシーンであり、生きようと格闘するその姿には復讐劇なんて霞んでしまう。娘を奪われたインディアンの追跡劇もあるけど基本的にはなんの関係もなく、そもそもこの時代にする必要性がまったく感じられなかった。映画の中ではCGと思われる野生動物たちが多数走り回っていました(笑)。ディカプリオを襲うクマももちろんCGでしょうね。野外撮影とスタジオ撮影部分の境目がまったくわかりません。ぜんぶスタジオだったりして(笑)。

★★★★☆

(参考:イギリスでビーバーを導入しようとして反対される話がでてきます)

www.hetareyan.com

貯金40万円が株式投資で4億円 元手を1000倍に増やしたボクの投資術

かぶ1000 ダイヤモンド社 2021.1.21
読書日:2022.4.3

バリュー株投資を極めた著者がその技を惜しげもなく公開する、日本でバリュー株投資を行うときの教科書的な決定版。

いやー、これは素晴らしい本だ。題名がちょっと一般受けするような軽いものになっているが、内容はもちろんそんなことはなく、超一流の個人投資家の知恵が詰まっている。

株式投資家のパターンにはバリュー投資とグロース投資の大きく2つに分かれるが、わしはグロース投資である。というのは、バリュー投資というのがよく分からないからだ。

どこが分からないかというと、(1)銘柄の選択方法、(2)いつ上がるのか分からない、というところである。

グロースだとこの2つは簡単である。なぜならグロース株は株価がすでに上がっているのですぐ見つけられる。具体的には新高値をつけた銘柄だ。新高値銘柄の中から、その株価上昇がビジネスモデルなどに基づく本質的なものなのか、それともたまたまなものなのか、そのへんを見分けるのは比較的簡単である。(わしにとってはだが)。この上がった原因が今後、数年に渡って継続的に当てにできるものなら、投資対象である。そしてすでに株価は上がっているので、いつ上がるかは問題にしなくてもいい。すでに市場から発見されているのだから。

ところがバリュー株の銘柄の場合、その対象はあまりに広すぎる。PBRが1倍以下の場合にしてもいったいどれだけあることか。ともかく日本市場にはバリュー銘柄がものすごく大量にあるのである。そしてその銘柄を仕込んでも、いつ上がるのかさっぱりわからない。こういうことは、まいにち四季報を読んで飽きないような人物以外には難しいのではないかと思わせる。

しかし、この問題について、作者はかなり明快な回答をしている。

まず銘柄選択については、PBRの基準をかなり厳しくする。そして、利益をだして内部留保が積み上がっていく一方なのに、株価が上がっていない銘柄を選択肢にするという。

そして何より、著者である”かぶ1000”流の銘柄選択のスクリーニング機能を備えたサイトがあるんだそうだ。え〜、それはいいなあ。

そしていつ上がるかだが、あまり気にしなくてもいいらしい。その代わり、配当利回りも考え配当の多いものを買う。さらに株価は低位でもそのなかでボックス的な動きをするから低いところで買って高いところで売るという取引でそれなりに収入を得ながら待つ、ということをするらしい。

なるほどねえ。配当利回りが高いものを買うと、株価が上がるまでは高利回りの定期預金をしている気でいればいいんだ。1億円あれば利回り5%で税金を引いても400万円が入ってくるからね。その点、グロース銘柄は配当利回りが低いものが多いから、株価があがらないとイライラしちゃうよね。それに株価のボラティリティが大きいから、大きく動きすぎてこちらも精神的に悪いかもしれない。もっともわしは慣れましたが。

うーん。バリュー株かつ高配当銘柄への投資はいいかもしれない。

すこしバリュー株投資を検討してみようかしら。

★★★★★

心理的安全性のつくりかた 「心理的安全性」が困難を乗り越えるチームに変える

石井遼介 日本能率協会マネジメントセンター 2020.9.10
読書日:2022.4.2

全員の知恵が求められる現代の組織では、自由に発言できて責められることのない、「心理的安全性」がある組織運営が求められるが、そのためには具体的な行動という形で示すことが大切だと主張し、その方法を伝授する本。

わしが図書館で借りたのは2021年の8刷版で、短期間に刷数を稼いでいることがわかる。どうやらこの本はこの分野の教科書になっていて、セミナーなんかで大量に買われているらしい。こういうふうに、ずっと使われる教科書を著作に持つというのはなんとも羨ましい限りです(笑)。

まあ、それはともかく、この本で書かれているのは、ようするに「風通しのいい組織を作る」ということです。

しかし、わしはなんかそんなに風通しの悪い組織にいた経験がないので、いまいちよくわからない。会社に入って以来、好きなことを言ってきたが、とくに問題が起きたことはない。まあ、気質的に気にしなかっただけかもしれないが。

しかし、なにか意見をいうと言い出した本人がそれを実行しなくてはいけなくなる、ということはあった。こうなると余計な仕事はしたくないから、自然と発言は控えられるようになる。ということは、この本の定義に照らすと、やはり心理的安全性が確保されていなかったということになるのだろう。

でも、「風通しの良い組織にしましょう」とお題目を言ったたけでは、そういうふうにはならない。ひとは抽象的な言葉には反応しない。具体的に態度で、反応をその場で返す、ということをして、本当に自由に発言をしても安全だという体験を増やさないと、組織は変わっていかないという。

たとえば、なにか問題が起きたときに、担当者に「なぜそんなことをしたのか?」と聞くと、相手の責任を問うてしまうので、そんな聞き方はせずに、「どこで、なにがおきたのか教えて下さい」と事実を確認する聞き方をする、とか。

これは自分が上司の場合だけど、部下から上司の態度を矯正していくことも可能だという。

しかしまあ、正直に言って、こんなこともしなくてはいけないだなんて面倒くさいなあ、という気がしました。なんとも会社員のみなさんは大変ですねえ。いや、わしも会社員ですが、なんか自分が会社員という気があまりしないんですね。会社員のふりした自由業のような気がしてるんで。

ともかく、たかが会社で働くことに、ここまでする価値があるんだろうか、と考えちゃうよね。

なんか、とてもとてもご苦労さまなことです。

★★★☆☆

 

Invent & Wander ジェフ・ベゾス collected Writings

ジェフ・ベゾス 訳・関美和 ダイヤモンド社 2021.12.7
読書日:2022.3.29

アマゾンのジェフ・ベゾスの過去の株主へのレター、寄稿文を集めたもの。

この本の3分の2くらいは、株主への過去20年ぐらいのレターとなっていて、アマゾンのそのときどきの状況や今後のことを話しているものですが、しかしとても退屈です。なぜなら、ジェフ・ベゾスの方針は起業以来一貫していて、まったく変化がなく、ずっと同じことを言っているからです。

曰く、
(1)顧客視点で考える。
(2)長期視点で考える。
(3)株価よりもキャッシュフロー
以上、みたいな。

これに付け足すならば、アマゾンはテクノロジーの会社で、発明をたくさんしている、ということぐらいでしょうか。

どちらかというと成功した話よりも、失敗したことについてベゾスがどんなことを語っているか知りたかったのですが、例えばファイフォンについてどう考えているかみたいなことですが、具体的な話はありませんでした。もしかしたら編集でカットされてしまったか、それとも本人が言うように、アマゾンはあまりにもたくさんの失敗をする会社なので、そのうちの一つに過ぎないので、大げさに語る必要もないと思っているのかもしれません。

アマゾンはたくさんのことに挑戦して、たくさん失敗するのだそうです。挑戦は2つに別れていて、一度決定すると後戻りできないものと、だめだとわかったらやめても問題のないものがあるんだそうです。たとえばプライムのような配送料無料のサービスは、一度導入したあとやめると客の信頼は失墜するので、前者のやめられない挑戦です。ほとんどの挑戦は後者のやめても問題ないものなので、ぐずぐずせずにすぐに挑戦するそうです。

前者の後戻りできないものこそ会社のトップが慎重に判断すべきものだそうです。とはいっても、その決断は分析的に行うことは不可能で(分析を行うと、必ず挑戦しないという結論になってしまい、誰もが反対する)、結局は自分の心に聞いて決断を行うということらしいです。

ちょっと面白かったのは、キャッシュフローの考え方。利益だけ考えると設備投資をして売上を伸ばしたほうがいいけれど、設備投資をした分だけキャッシュが減る。それよりは、急いで大きくなるよりもゆっくりと大きくなったほうが得だという。

あれ、アマゾンって、利益よりも投資を優先していた会社じゃなかったっけ。物流、倉庫に大々的に投資をしてたでしょう? でも実際には固定資産への投資を減らして、回転率をあげてるんだって。へー。まあ、これは2004年の株主レターなので、その後変わったのかもしれない。このころはインターネットバブルがはじけた余波が残っていたかもしれないから、生きのこりをかけて少しモードが違ったのかもしれない。

AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を始めたとき、ほかのIT企業が7年間も追随してこなかったことはとてもラッキーだったと言っている。他のIT企業は顧客が求めているのはわかっていたが、マシンを売って儲かっていたので追随しなかったということらしいが、まあ、よくある話だよね。この前に読んだ「ジェイク・バートンの一生」でも、ジェイクは他のスキー板の製造会社がスノーボードに参入してこなかったのをすごくラッキーだったと言っている。

しかしまあ、その時々で細かい違いはあるけれど、ジェフ・ベゾスはずっと同じことをして来たという印象は変わらない。そういう意味では、スポーツ選手がいつまでも飽きずに基本の練習をずっと続けているようにも見える。サッカー選手がリフティングやドリブルの練習をずっとしているみたいな。

こういう同じ事を飽きずにができる人が成功するんだね。わしにはとてもできないなあ。きっと飽きちゃうんじゃないかなあ。

★★★☆☆

 

スノーボードを生んだ男 ジェイク・バートンの一生

福原顕志 文藝春秋 2021.11.20
読書日:2021.3.27

スノーボードというスポーツがなかった頃、スノーボードというものを構想し、そしてスポーツとしても事業としても成功を収めたジェイク・バートン(1954−2019)の評伝。

こういうのってたいていは翻訳が多いのだが、著者の福原顕志さんはもちろん日本人で、アメリカ在住のノンフィクション番組を作っている人なんだそうだ。日本人が書いてくれたおかげで、日本でのスノーボードの普及の話もたっぷりと書かれている。ジェイクと日本の関係も深いらしい。もちろん、北京オリンピックで金メダルを取った平野歩夢も出てくる。

出版は北京オリンピックの少し前だし、ジェイク・バートン自身も2019年に亡くなっているので、北京は出てこない。この本は平野歩夢が2018年の平昌オリンピックで銀メダルを取ったところから始まる。銀メダルのお祝いに、カナダの雪山の山頂にヘリコプターで運んでもらって滑るヘリボーディングをプレゼントしてもらったそうだ。

わしはスポーツにあまり興味がないので、ジェイク・バートンがスノーボードというスポーツを構想して、ボードを開発しようと決意するというその熱意がいまいちよくわからない。しかし、スポーツというのは最初は遊びから始まるというのは理解できる。どんなスポーツも最初は他愛ない遊びだったのだ。それがたちまちビッグビジネスになってしまうというのが、現代ということらしい。

ジェイクが最初にスノーボードのようなものに触れたのは、子供の時のおもちゃだったそうだ。最初はサーフィンがしたかったらしい。住んでいたのはニューヨークのロングアイランドだったので、海がそばにあった。しかし親がサーフボードを買ってくれなかったので、自分の小遣いでスナーファー(スノー+サーファー)というサーフィンのような板で雪の上をすべるおもちゃを10ドル以下で買ったのが最初らしい。スナーファーで遊んでいるうちにこれがちゃんとしたスポーツになることを確信する。それを誰もしないのが不思議だった。

やがて、コロンビア大学を卒業して投資銀行に入ったが、どうも性に合わない。そこで23歳の1977年に投資銀行をやめて起業するのである。もちろん、事業はかねてから温めていたスナーファーをスポーツにするというビジネスだ。

うーん、すごいね。いろんな新しい遊びを考える人はたくさんいるだろうが、ビジネスとして結実するのはどのくらいだろう。わしはすぐに、新しいビジネスは新しいテクノロジーと結びつくという発想をする人間だが、スノーボードの場合、新しい新技術というのはそんなにないんじゃないかと思う。材料も製造工程も最初はスケートボードやスキーの技術の転用になってしまうのだから。そうすると、売りはクールと表現されるようなスタイルにあったとしか考えられない。スキーとは違うということしか取り柄はなかったんじゃないか。

ともかく、起業したジェイクがまずやらなくてはいけなかったのは、使えるスノーボードを作ることだった。いまのところおもちゃのスナーファーしかないんだから。で、自分で作り始めたのだ。もちろんそんな経験はまったくなかった。最初はとりあえず板を買ってきて、自分で切ってみた。うーん、本当に感心する。なんの技術もないのにとりあえずやってみるんだから。それで、ニューヨークにいては実際にすべって試すことが難しいので、すぐにバーモント州に引っ越す。

いろいろ試したが満足のいくボードができずに、カリフォルニアでサーフボードの作り方を学んだがそれにも納得できず、2年間で100本もの試作品を作る。その100本目が納得いくもので(スケボーの技術をつかったもの)、この100本目が最初の製品になる。

この試作の2年間は本当に孤独だったそうで、朝、目が覚めても何もする気が起きないこともあったそうだ。どうもこういう孤独の期間を経ない起業家というのはあまり知らないね。ちなみに個人投資家も、自分のスタイルが確立するまではかなり孤独です。というか、確立しても基本は一匹狼なので、孤独なんですが。

やっと製品ができたので売り始めるが、1年目はたった350枚しか売れなかったそうだ。従業員を雇っていたが(しかも親戚や知り合いだったらしい)、なくなく辞めてもらって、次のシーズンはひたすら在庫をかかえてあちこちのスポーツショップに売り歩く。夏の間はアルバイトをして、なんとか会社を潰さずにすんだ。

2年目は倍の700枚が売れたので、確信する。このペースで増えていけば、いつかかならずブレークすると。新しいものはブレークするまでに時間がかかるということだ。でも年間の成長率が2倍というのははっきり言ってものすごいです。人によるだろうけど、投資の場合20%あれば上出来なんじゃないですか? この後、本当にずっと2倍のペースで伸びていくわけで、すると、5年で売上が1万枚に達することになる。このくらいになればようやく軌道に乗ったといえるレベルじゃないかな。長かったけど、なんとかジェイクは厳しい時代を乗り越えることができた。乗り越えたあとももちろん倍々ゲームだった。

厳しい時代では、高校生のアルバイトがバイト代をあげてくれと言ったら、ジェイクが泣き出したという話も残っている。そのくらい立ち上がるまでは厳しかったのだ。これはシュードッグで、ナイキの創業者フィル・ナイトがすべて事業にお金を突っ込んでいて、事業自体はうまく成長していたのに、現金が手元になく、ランチ代すらなかったという話を思い出す。

このころ、日本人の小倉一男という人がスノーボードを気に入って、いきなり100枚注文してジェイクを驚かせるということがあった。小倉はのちにバートンジャパンの社長になる。日本とジェイクの関係は最初から良好だった。

その後、スキー場から締め出しをくらって妥協する過程とか、競合が出てくる過程とか、競技でスタープレーヤーが出てきて、そのスターが若くして亡くなってしまうとか、いろいろ起きるんだけど、ともかくスノーボードはスポーツ競技として確立して、オリンピックの競技にもなる。この早さはすごいけど、倍々で進んでいけば、数十年後にはすごいことになるから、これは理解できる。オリンピックでほとんどの選手が乗っているスノーボードはもちろんバートンブランドだ。まあ、この辺のうまくいってからの話のほうが普通は面白いのかもしれないが、個人投資家の視線としては創業時の苦労のほうがぐっとくる。

ジェイクの晩年は病気との戦いだった。まずは2011年に僧帽弁逸脱症という病気の手術を受け、つぎにガンにかかる。ところが、がんを克服したと思ったら、2015年、今度は全身が麻痺するミラー・フラッシャー症候群という珍しい病気にかかってしまう。それもなんとか克服したが、2019年にガンが再発してしまう。もう、ジェイクには病気と戦う気力は残っていなかった。バートンは年商700億円の規模に大きくなっていたし、十分やったという思いもあったのだろう。2019年11月20日にジェイク・バートンは、尊厳死を選択し、家族に見守られながら息をひきとった。

ジェイクは結局、上場は選択しなかった。従業員や選手たちと家族のように関わり合いたかったのだろう。こういう創業者の意志はなかなか引き継ぐのが難しいけど、たとえ上場しても、気さくな企業文化が続くことを祈念いたします。

★★★★☆

 

 

サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット

モーガン・ハウセル 訳・児島修 ダイヤモンド社 2021.12.7
読書日:2022.3.22

一生お金に困らずに暮らすというのは、収入が多いことではなく、何か不測な事態が起きても困らないように余裕がある状態を保つことであり、そのためにはなんの目的がなくても倹約と貯金を行うことで経済的なゆとりを持ち、心の自由を得ることがもっとも大切で、さらにその余分なお金を時間をかけて投資すれば複利効果で、大きな富を築くことも可能だと説く本。

まあ、こういう話は、この本だけではなくネットのコラムなんかでもファイナンシャルプランナーが口を酸っぱくして(死語?)書いていることだけれども、この本はそれでも面白かった。このへんが現代の人気コラムニストたる所以なのだろう。現代人の感覚にピッタリの、進化心理学や行動心理学の例えやお話を持ってきて、なかなかいい感じだ。とくに投資したときに、一部のロングテールの銘柄がほとんどの富を生み出すとか、株価の変動を示すボラティリティの高さはテーマパークの入場料みたいなもの、などというところが気に入った。

この本で繰り返し著者が唱えているのは、本当の富とは何かということだ。それは収入が多くて、お金をたくさん使うことではない。何かあったときに使える余分な資産を持っていることなのだ。

何かあった時というのは、不意の病気や事故、会社からリストラされたときのような自分でどうしようもないことが起きたときだけではない。もっと大事なのは、なにか自分でしたくないことがあったとき、それをしなくてもいいという選択肢を持っていることだ。例えば会社から自分のやりたくない仕事をするように言われたときに、十分な資産を持っていればいつでもノーと言える。実際にノーと言うかどうかはともかく、ノーと言える自由を持っていれば気持ちに余裕ができ、慌てずに冷静に対処できるだろう。それが富の効果だ。

そのために必要な資産の額は人によりちがう。自分にとって必要な額を試算して、それを貯めるように努力するしかない。そして複利で運用してなるべく増やすようにする、と。まあ、そんな事が書いてある。

でも、安心できる資産というのはどのくらいだろう。自分一人なら、わしは非常に少ない生活費で楽しく暮らせる自信がある。だから、そんなに富は必要ないだろう。

でも、これは家族がいなければ、だ。家族がいると必要な金額が何倍にも、下手をすれば一桁以上上がる。なにしろ、子供の教育費を考えるだけでも、大変な額ですからのう。妻が気に入っているマンションのローンや管理費や固定資産税もあるし。

そういうわけで、家族、親戚、友人など、考慮に入れる人の範囲をどんどん広げると、バッファーとして築かなくてはいけない富は大変な量になり、どんなに資産を持っていても余裕をもっていられないかもしれない。

…ということを一瞬考えたのだが、しかし、まあ、これは杞憂でありましょう。誰だって、自分の資産を使わせてもいい範囲は明確でしょうからね。(つまり自分と家族のみでしょう。家族が入らない人も多いかも(笑))。

そういえば、著者は家を買うときに、全額現金で払ったのだそうだ。普通のファイナンシャルプランナーなら、なるべく借金して浮いたお金で投資するようにと言うだろうが、あえて自分が安心できる金銭感覚でそうしたという。

えーっ? 日本のファイナンシャルプランナーだったらこんなアドバイスするかなあ、借金を増やして投資しろだなんて。逆に、投資はあくまで余裕資金でといって控えさせて、頭金を増やし、月々の返済額を減らすように指南するのでは?

この辺が日米の違いかもしれない。

もっともここで述べたように、わしは自分の判断で、あえて借金を増やして投資をしましたけどね。結果的に、お金が増えてよかった(笑)。

★★★★☆

フリーポート(保税倉庫)という例外 「世界を貧困に導くウォール街を超える悪魔」で思い出したこと

世界を貧困に導くウォール街を超える悪魔」を読んでわかったのは、結局のところ、例外の場所や制度を利用して、税金を納めることなしに利益を搾り取って行く金融産業の姿だった。

これを読んでわしが思い出したのが、フリーポート(保税倉庫)と呼ばれる、特別な倉庫のことだ。フリーポートは入国や出国するまえの一時的な保管のための倉庫であり、どこの国でもないという、国と国の境にあるような特別な場所だ。ちょうど空港の免税店のように、税金がかからない特殊なところだ。

フリーポートはあくまでも一時的な保管場所のはずだった。ところが、高価な物品がこのフリーポートに半永久的に保管されるという事態が起きている。

たとえば美術品だ。

美術品で高価なものはいまでは美術館ではなく、フリーポートに保管されているという。フリーポートでは、持ち主が誰かは問われない。フリーポートに持ち込まれる場合は税関も通らないので、政府もどのフリーポートに何が保管されているのかわからない。

こうしたフリーポート内に美術品がしまわれると、なかなか表に出てこない。なぜなら、表に出た途端、税金がかかってしまうからだ。そこで、フリーポート内で、展示会やオークションが開かれ、取引が行われる。取引が行われ所有者が変わっても、その美術品はやっぱり表に出てこない。倉庫内のある部屋から別の部屋に移されるだけである。美術品が値上がりして買った値段よりも高く売れると値上がり益は所得になるが、その所得は税務署には把握不可能なので、課税されることはない。

こうして高価な美術品は人目に触れることはなく、フリーポート内を行ったり来たりすることになる。もちろん、美術品にかぎらず高価なものはフリーポートに持ち込まれ、密かに売買される。フリーポート内は気温や湿度が完璧に管理され、倉庫会社はあらゆる災害から預かっているものを保護するが、あらゆる政府からも保護する。

こうしたフリーポートは、これまでスイスやルクセンブルクなどヨーロッパが中心だったが、いまではアジアでもシンガポールに最新の設備のフリーポートがあり、ここで展示会やオークションが開かれているようだ。フリーポートは輸送の便を図るために、国際空港のそばに作られることが多い。

こうした例外的な場所を富裕層が利用して、納税もせずに取引を行うのは、わしは納得できない。わしは資本主義は認めるが、みな同じルールでお金儲けを行うべきだと思う。このような例外を作るべきではない。

ところが日本政府は我が国にフリーポートがないことを他国に遅れていると感じているらしく、推進する構えのようだ。なんでもかんでも外国がやっていることを取り入れればいいというものではない。これは倫理観が欠如した考え方なんじゃないか。

ところで、「ぜんぶ、すてれば」や「孤独からはじめよう」の中野善壽が寺田倉庫社長のときに始めたのは、こんなフリーポート事業だったらしい。もちろん革新的ではあるが、始めるときになにか倫理的な葛藤はなかったのだろうか? どうもまったくなかったようだが、どう考えたのかちょっと話を聞いてみたい気がする。革新的なサービスといっても、これはちょっと違うんじゃないだろうか。

https://www.terrada.co.jp/ja/news/11882/
「寺田倉庫、国内初の保税蔵置場を活用した 保税ギャラリースペースをオープン
天王洲で美術品の国際流通とアート関係者が集う環境を創出」

 

 

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